吉本ばななさんのお姉さんで漫画家のハルノ宵子さんが、

父であり有名な思想家である吉本隆明さんについて書いたエッセイ集。

ハルノさん、文章も大層うまくて、勢いがあって、

一気に読めてしまう。

 

私はばななさんの大ファン。

父・隆明さんについてのエピソードはこれまでに何度も、ばななさんのエッセイで

読んでいたのだけれど、

ハルノさんが語る父親像というのはまた違っている。

これは意図して、なのかもしれないけれど、

ばななさんはあくまで「やさしいお父さん」として書いているので、

ちょっととぼけた様子、かわいらしい様子の描写が多かったように思ったが、

対して、ハルノさんは「すぐれた思想家」としての父、

そんな父が家族とどう過ごしていたのか、を書いているように思う。

 

 

本作の中で「おお!」と思ったのが、隆明氏は、

集団でものごとを行うことを良しとしなかったという点。

 

どんなに“善いこと“でもたとえNPOでも、集団で行った場合それは

“悪いこと”に転じてしまうのだ。またこれは絶対社会正義だからと、

同調圧力を振りかざす世間の空気からも“ひとり”であらねばならない。

 

これは素晴らしい考え方だと思う。

結局、戦争だって、それぞれが「これぞ正義」と集団で思うから

起きてしまうのだ。

なにも根っからの悪人が戦争を勃発させるわけではない。

そして同調圧力。

これこそが日本を太平洋戦争へと駆り立て終戦を遅らせた一因ではないか。

 

ハルノさんによると、

隆明氏は一種の天才というか、

ものごとの結論がまず見えてしまうような、特殊な脳の持ち主だったのでは、とのこと。

また、非常に論理的で、反抗期まっさかりの子どもも

思わず納得してしまうようなことを言っていた。

たとえば、大学に行きたくないと娘が言い出した時の言葉とか。

これがいちいち、「なるほど・・・」と思ってしまう深さ。

 

著作を読んだことがなくても

吉本隆明ってなんか凄そうだな・・・と思わせる作品。