※ネタバレあり

 

 

 

「PERFECT DAYS」、完璧な日々?

どういうことなのだろう、とずっと考えていた作品、やっと鑑賞。

 

トイレ清掃を生業としている男性、平山の日々が、淡々と、

繰り返し描かれる。

毎朝、近所の寺の、ほうきで落ち葉を集める音で目覚め、歯を磨き、

植木に水をやり、決まった順序で持ち物をポケットにしまい、

自販機で缶コーヒーを買い、軽自動車で掃除場所に向かう。

この、ルーティンが何度も何度も登場する。

 

中盤で、姪が家出して平山の自宅に押しかけ、数日間2人で過ごすという

「非日常」が描かれる。

ここから何か事件が起こるのか?と思わせるのだけれど、

姪の母親、平山にとって妹が迎えに訪れて、非日常はあっさり終わり。

またもとの日々に戻る。

 

平山がどうしてトイレ清掃の仕事をしているのかなど、

背景は一切語られない。

 

ただ、姪を迎えに来た平山の妹が、運転手付きの高級車に乗っていて、

平山がトイレ掃除をやっていることを非難するように話すことから、

もしかしたら平山も裕福な家庭で育ったのではないか、とにおわせる。

さらに、妹から、

「お父さんはまだ本部にいる、認知症になっている」といった発言がある。

本部?本部っていうと…と、

視聴者は想像をふくらませることになる。

 

毎日同じことの繰り返しなのだけれど、

毎日毎日、空を見上げてにっこりしたり、

掃除場所に向かう車の中で、好みの曲を聴いて過ごしたり、

神社のベンチに腰掛けて木々を見上げて写真を撮ったり、

夜、寝る前に必ず文庫本を読んだり。

なぜだろう、平山の暮らしが豊かに見えるのだ。

 

アパートはおんぼろだし、持ち物も少ないし、

食事も質素なのだけれど、

行きつけの居酒屋のおじさんと交わす二言三言、

銭湯で鼻の下まで湯につかること、

休日だけ小料理屋に行ってママと話すこと、

ひとつひとつが幸せそうに見える。

その時々に見せる平山の表情が満ち足りているからだろうか。

 

PERFECT DAYS…って…そういうことか。

「これ」と一言ではなかなか言えないのだけれど、

見終わった後に納得感が残る。

これは…はっきりいって役所広司だからこその完成度なのだろう。

そして、納得感が得られたのは、私自身、

ある程度年を重ねたからなのかもしれない。

想像の余地が広くて、滋味あふれる作品。

 

※映画を見て、感想を書き終えてから、答え合わせのように

各種評論を読むことにしている。

ある評論のなかで「なるほど!」と思ったのが、

「この作品にはデジタルが一切出てこない」ということ。

スマホのかわりにガラケーがちょっとだけ出る。

テレビはなく、音楽を聴くのはカセットテープとテープレコーダー。

このデジタルデトックス感ゆえ

「豊かな暮らし」に見えたのかもしれない。