「医者とはどういう職業か」里見清一と「妻を看取る日」垣添忠生 | ドリアン長野の読書三昧

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日本で一番偏差値が高いのは東大理科三類です。頭脳優秀な高校生がプライドだけのために受験して医学部に入る。医師不適格な学生が医学部に多く存在すると著者は警鐘を鳴らします。

「鳥大医学部は私の生家から歩いて10分のところにあるが、東工大や東京外大、一橋大なんかよりも上である。これってさすがにおかしくないか?そもそも鳥大医学部のある米子市なんて知らないだろう?」
(原文ほぼママ)

という鳥取県民自虐ネタあるあるの著者の本名は国頭英二、1961年生まれの東大出身の内科医です。ペンネームは山崎豊子先生の許可を得て『白い巨塔』の良心的な医師から頂戴しました。

「医学部の6年間は国家試験のための知識の詰め込みである。大局観を養うことはできない。必然的に自分は医者に向いているかどうか、なんてなことを考える余裕もない。卒業して初めて、生身の患者が待ち構える現場に放り込まれ、愕然とするのである。そして、もしかしたら自分は道を誤ったのか?と呆然とするのである。その時君は、最短コースであっても、すでに24歳になっている。どうだ怖いだろう」

どうだ怖いだろう、って怖いに決まってますがな。
河合塾や東進スクールの講師は医学部を目指す学生や予備校生に本書を勧めるべきでしょう。

その他にも病院への就職、労働環境、収入、医療事故などがユーモアを込めて(時には意地悪く)セキララに分かりやすく書かれています。

もう一冊、『妻を看取る日』の著者は昭和天皇の前立腺癌手術の担当医でした。この本に書かれている著者の妻の担当医、K医師というのは国頭先生のことです。

著者、垣添医師は12歳歳上のバツイチの患者と恋に落ちます。彼の家族は大反対、彼は傘一本掴んで駆け落ちします。
仲睦まじい二人は互いに高め合い、協力し合う、読んでいて微笑ましい夫婦です。


鳥取あるあるをもう一つ。妻は東京生まれですが、両親は鳥取生まれ。妻の母は東京に出て来た時、「魚がみんな腐っている」と思ったそうです。日本海の魚しか口にしたことがなかったので。

肺癌である妻は自宅で大晦日に癌の専門医である彼の目の前で息を引き取ります。国頭医師が正式な死亡診断をして死亡診断書を書きました。

垣添医師は大声をあげて泣きました。それからが本当の地獄でした。食欲はなく、お酒に溺れ、うつになり、睡眠薬がないと眠れなくなりました。生きていても仕方がない、と何度も思い、これは人間が耐えられる限界を超えているとも思いました。

それでも人間というのは強いものです。日にち薬で少しずつ立ち直っていきます。

これは絶望の淵から這い上がった慟哭と再生の体験記です。現在絶望の中の真っ只中にいる人に読んで欲しいと思います。