そして帰りのドバイ一泊だが、ドバイといえば世界一高いビル、ブルジュハリファ。「ミッション・インポシブル」でトム・クルーズがスタントマンなしの命がけで熱演してたよね。
これがまた高い。一人一万円近くする。それでも125階あたりだ。145階ともなると、目が飛び出るくらいの高さ。それでも一生に一度のことだからと最上階に登るつもりだったが、ある事件が勃発してやめた。
それは出発二週間前のことだ。高市首相の台湾有事発言で中国から日本へのフライトが取りやめになったのだ。リヤドから中国内で二回乗り継ぎをして帰国する便が飛ばなくなった。今から代替え便を検索してもクリスマスシーズンと新年にかけてチケットは倍以上に跳ね上がっている。
「今回はキャンセルしようか。来年は高校受験だから無理だけど、高校生になったら行けるだろう」
「いや、絶対に行く」と娘。
そりゃそうだろう。不可抗力とはいえ、ここでキャンセルしたらトラウマになる。そのために部活と塾と勉強を頑張ってきたのだ。
「四万円持ってるから全部出す」という娘だが、前回のオーストラリア旅行で供出させられたはずだ。案の定、財布には一万円しか残っていない、ていうか一万円もよく残っていたものである。
しかし、これでは焼石に水である。
土曜日の朝、起きたら枕元に置いてあるスマホがない。あれ?と思って探してみると、妻の枕元にあった。昨夜遅くまで帰国便を検索していたのだろう。
僕も一縷の望みをかけて検索するが格安チケットは出てこない。
7時、休日は9時か10時まで熟睡されている妻が寝室から出てこられた。
「スマホ貸して」
妻は検索する。「高い。これも高い」
親指を動かし、バッサバッサと薙ぎ倒す。全盛期のアンディ・フグか、レチ・クレバノフか、黒澤浩樹か。
そして親指がピタリと止まった。
「これなんかいいんじゃない?」
と、殿、なんと申された!老いたとはいえ、爺の耳、今しかと聞き申したぞ。と殿の元へにじり寄る。
スマホの画面には「ドバイ国際空港〜海口美蘭国際空港〜香港国際空港〜関西国際空港」。
チケット代金は以前の航空券の四万円増しになる。これは仕方がないだろう。キャンセルされた便のチケット代は払い戻してくれるし。
さすが自称岡倉文子は伊達ではなかった。この喜びを娘に伝えようと思ったが、娘はわれわれの苦闘を尻目に部活の試合に出て行った。
少しくらい頑張ってとか健闘を祈るとか期待してますとかお父様大好きとかないのか。
そう言えば娘は自宅から歩いて通学しているのだが、その途中に中国領事館がある。この前通った時に入口に柵が設置されて容易に入れなくなっていたらしい。さもありなん。しかし盛夏の時も真冬の時も雨の時も警杖を持って警備している警察官の方々を見るたびに敬意を表さずにはいられない。
往復で7回の乗り継ぎ、費用を抑えるために保険には加入しなかったが一度でも延滞したらえらいことになる。かなりタイトな旅になりそうだ。
