数学読み物が好きな人にとってはよく名前を見かける足立恒雄氏による
数学エッセイです。エッセイなので読みやすいですが、扱っている内容は
なかなか高度です。
1章「虚数とは何か」で実在とは何かを問いかけ、2章「三角形の内角の
和はホンマに二直角か」で非ユークリッド幾何の発見による公理の相対
性が明らかにされます。数学における実在とは、一定のルールに従って
論理的思考で導かれるものであり、現実世界と関連している必要はない
わけです。
3章「1+1はなぜ2なのか」で現実世界と切り離してどのように自然数が
定義されるのかが解説されます。集合論がベースになってるわけですが
素朴な集合論で生じたさまざまなパラドクスをどう乗り越えてきたのかが
見所です。いわゆるラッセルのパラドクス。
最後の4章「無限とは何か」では、有限の存在である人間がいかにして
無限という概念を手なずけてきたかまとめられます。カントルの対角線
論法で無限にも階層があるということが証明された一方で、ゲーデルの
不完全性定理で人知の限界ともいえることまで証明されてしまったのが
すごい。当初この定理を知ったときは衝撃でしたが、個人的には最近
少数の公理から真の命題がすべて証明できるとのヒルベルトの考えが
ずいぶん楽観的すぎたようにも思います。
数学嫌いの人にこそこういう本を読んでほしいのですが、そういう人は
読まないんだよなあ。素人が持ちやすい数学観が一掃されるのに。
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無限の果てに何があるか 現代数学への招待 (角川ソフィア文庫)
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