息子が音楽のレッスンを始めたのは幼稚園の年少、つまり5歳の時だ。
少し話が長くなる。
息子は、何をするにも周囲とずれる子供だった。幼稚園に迎えに行けば、他の子供達は弾けるような笑顔で母親達に向って駆け出して来ているのに、我が子だけはいつも現れない。きまり悪そうに顔を見合わせて帰ってゆく親子達に、胃が痛くなりつつあいさつをしておそるおそる教室をのぞくと部屋の片隅で一人絵本を読みふける息子の姿がある。
幼児教室に行けば指示行動はまったく出来ずやりたい事しかしない。自宅から駅まで5分の道のり、1歩歩んでは看板に見とれ、2歩歩んでは薬局の店頭にある宜伝用動画を飽きるまでながめる。
私は手のかかる我が子の大変さに、キャリア形成はすでにあきらめて、息子中心の生活をしていた。
そんな折、夕方の買い物のため息子の手をつないで横断歩道で信号待ちをしていた時、盲人用信号機が鳴っているのをぼんやりと聞いていた。
あれ?
音鳴ったら渡っていいんじゃなかったっけ、ね、しんちゃん。
何気なく息子に話しかけ、気付いた。息子が信号機の音声を真似ていたのだ。
ピュ、ピュピュ。ピポピポ..
5歳児って我が子が天才に見える時期とはよく言うが、それにしてもなんとそっくり。音程(この時は私もミジンコレベルの音楽知識しかなく、そういう表現すらうまく出来なかったけど)良くないか?子供ってすごいな。