秋の蝉とはお盆のころから鳴きだす蝉だ。陽気な法師蝉としみじみ鳴く蜩がある。
今年のツクツクボウシの初鳴きは一声で終わったが8月10日過ぎだった。まだまだ蝉時雨は他の蝉が煩いが、それでも奇矯な声が目立つようになった。奇矯と言うのは、鳴き方が途中で転調し、最後が「ジー」とつぶやくように終わるからだ。
法師蝉しみじみ耳のうしろかな 川端茅舎
病身で臥せっていた茅舎には法師蝉の声はさぞや煩く響いたに違いない。
法師蝉あわただし鵙けたたまし 正岡子規
同じく病に臥せる身であった子規には、あのツクツクボーシの元気な声が羨ましくも、なにか慌ただしい鳴き方が死に急ぐ声とも響いたのではないか。
一方同じ病身でも、能天気な私にはひそかな傑作と信じている駄句がある。「黒柳徹子ですもの法師蝉」。テレビで「徹子の部屋」を観ているとき、ちょうどそ奴が鳴き始めたのだ(笑)!
一方秋の蝉のもう一方の主役は蜩(ヒグラシ)だ。 ちょうど盆が済んだ日に鳴きだした。
かなかなのどこかで地獄草紙かな 飴山 實
地獄草紙など見たこともないが、芥川龍之介の「地獄変」などを読むとその一端が覗けるかもしれない。
私にも「蜩やダムに沈みし家百戸」という句がある。ゴルフの帰りに喉が渇いて自動販売機に立ち寄ったのだが、ちょうどダム湖の傍だった。ヒグラシの声がそれらの家の挽歌ともとれたのだった。
鳴き終わるときみな孤なり秋の蝉 馬場駿吉