著者 : 和田秀樹 

      1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。

      和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医。

 

 プロローグ 80歳の壁を越えていく

  ・【健康寿命】身心ともに自立して健康でいられる年齢

    男性72.68歳、女性75.38歳(令和元年調べ)

  ・【平均寿命】何歳まで生きるか、という平均年齢

    男性81.64歳、女性87.74歳(令和2年調べ)

  ・【死亡数】年齢別に亡くなった人の数を調べたもの

    男性85歳、女性90歳(平成17年調べ)

 

  ・本来は誰にもわかりません。極端な話、明日はどうなるかわからないのです。

   この本では、老いを受け入れ、できることを大事にする、という考え方で目の前に現れる壁を越

   えて行くヒントを提示していきます。

  ・日本では、65歳以上を「高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」と呼んでいます。もっと明るくて

   希望の持てる呼び方にすべきだと常々思っています。そこで提案したいと思います。80歳を超え

   た人は高齢者ではなく「幸齢者」・・・。

  ・85歳を過ぎた方のご遺体を解剖すると、ほとんどの人の体にガンがみつかります。つまり、幸齢

   者になれば誰の体にもガンがある、ということです。年を取るとガンの進行が遅くなるため、放

   っておいても大丈夫なケースは意外と多くあります。ここから導かれる選択肢は、80歳を過ぎた

   ら我慢をしない、という生き方です。

  ・認知症は病気というより「老化現象」に近いものであり、年を取ると誰にでも起こる症状、とい

   うわけです。80代後半に40%、90歳で60%、95歳では80%の人が認知症になるのです。

    ◎食べたいのに、健康に悪いからと、我慢してしまう。健康の為と、無理して運動をする。

    ◎好きなタバコやお酒を健康に悪いからと控えてしまう。やりたいことがあるのに「もう

     歳だから」と我慢する。効いている実感がないのに「長生きのため」と薬を飲み続ける。

    ◎いづれも80歳を超えた幸齢者なら、本当はしてはいけない我慢や無理なのです。

  ・この本は、老親を持つ40・50・60代の人も必読です。長生きしてくれた親への、新しい親孝行

   のすすめです。

 

 

 1.医者・薬・病院の壁を越えていく

  幸齢者になったら健康診断はしなくていい

       ・健診はガンの早期発見などに繋がり、命を救われる人もいるでしょう。しかし、健診で示される

       「正常値」なるものが「本当に正常なのか」は疑ってみる必要があるでしょう。どの数値が正常か

        は一人一人違うからです。

 

  医療に頼るなかれ。医師には「健康」という視点がない

  ・医者は「肝臓の数値が悪い」と言って大量の薬を処方する。「小さなガンが見つかった」と言っ 

   て手術を勧めるのです。患者さんは薬漬けになったり、小さなガンと一緒に臓器の一部も切り取

   られたりするのです。幸齢者になったのなら、それは逆に、不調や寿命を縮める原因になりかね

   ません。   

 

  闘病ではなく「共病」で。闘うよりも手なずけて生きる

  ・「ガンと闘う」には手術や抗ガン剤が必要ですが、どちらも体は大きなダメージを負います。

   80歳を迎えるような幸齢者にお勧めしたいのは、闘病ではなく「共病」という考え方です。

   病気と闘うのではなく、病気を受け入れ共に生きることです。幸齢者に必要なのは「勇ましさ」

   より「穏やかさ」。「ガンと闘ってくれる医師」ではなく「ガンで苦しまぬ方法を共に考えてく

   れる医師」だと思います。

 

  「なってから医療」は中高年までの医療と違う。予防のための薬は、なってからは要らない

  ・動脈硬化に「なってから」は、むしろ血圧や血糖値を高めにコントロールした方が健康になると

   私は信じています。薬を飲んで血圧や血糖値を下げても、ガンのリスクは減らないのです。それ

   どころか免疫機能が落ちるため、ガンのリスクは逆に高まるとさえ考えられるのです。特にコレ

   ステロールは免疫細胞の材料となるため、コレステロール値が高いほどガンになりにくいという

   調査データもあります。

 

  もしもガンが見つかったなら。生活の質を重視する

  ・「なってから医療」という点では私は、幸齢になればガンの治療の必要はないと考えています。

   ガンは1cm大の腫瘍になるまでは、10年位かかるといわれています。転移するガンの場合は、

   その10年の間に、間違いなく転移していきます。「ガンが3年後に再発」したというのは、ガン

   を取り切れなかったのではなく、切ったときには既に転移しており、それが大きくなったのです

   特に80歳を過ぎるような幸齢者は、手術の必要はないと思います。年をとればとる程、ガンの進

   行が遅くなり、転移もしにくくなるからです。それならば、何もせず、放っておけばいい、とい

   うのが私の考えです。

 

  ガンを切る、切らない。どちらが長生きできるのか

  ・経験的に言うと切れば元気は確実になくなります。ほとんどの場合、ガンと一緒に臓器の一部を

   切り取ることになるからです。80歳を過ぎて臓器を切り取られてしまったら、これまでのように

   は生活できないことは明らかです。

  ・幸齢者はガンを切らない方がいい理由は、ほかにもあります。年をとっているほど、ほかの臓器

   にもガンがある可能性があるからです。病院の剖検では、85歳を過ぎればガンのない人はほとん

   どいませんでした。それを承知で、それでも切るのですか?という選択なのです。医師もそれは

   わかっている筈です。なのに「手術が成功したら長生きできますよ」とは言っても「ヨボヨボに

   なりますけどね」とか「そのうち他のガンも出てくるかもしれないですが」とは言ってくれませ

   ん。目の前にあるガンを消すことが専門医の仕事だからです。

 

  糖尿病の治療がアルツハイマーを促進する

  ・「糖尿病の人の方がアルツハイマーになりにくい」ということが次第にわかってきました。九州

   大学が福岡県の久山町をモデルにして長期に行った研究でも「糖尿病の難治例、つまり薬やイン

   シュリンを多量に使わなければいけないケースほどアルツハイマーになりやすい」という結果が

   導き出されています。80歳を過ぎたらメタボの心配をするより、小太りくらいを目指す。その為

   には好きなものを食べなさい、と言うのは、こうした理由によるものなのです。

  ・最新医療の力によって、できる限り長生きするのが幸せなのか・・・。個人的な見解を言えば、

   私は嫌です。体だけ若くて、脳がボケた状態が幸せとは思えないからです。あるがままを受け入

   れて、今できることを楽しみながら、自分らしく生きたい、と私は思っています。

 

 

 2.老化の壁を越えていく

  明日死んでも後悔しない人生の時間の過ごし方。3つの無理をやめる

  ・それは、我慢や無理をやめる、ということです。次の3つは、すぐにでもやめたほうがいいと思

   います。 ①薬の我慢、②食事の我慢、③興味あることへの我慢です。「食べたい」と思うなら、

   我慢せずに食べたらいいのです。したいことは我慢せず、やったらいいと思います。例えば肉に

   は、男性ホルモンの材料になるコレステロールが含まれており、肉をしっかり食べる人の方が元

   気を維持できます。

 

  子どもにはお金を残さない。お金があるなら使ってしまう

  ・年を取ったときの最大の財産は「思い出」だと私は思っています。最後はベッドの上で過ごす日

   が多くなります。そんなときに支えとなってくれるのは「あのときは楽しかった」という思いで

   です。もしも残せるほどのお金を持っているのなら、思い出にお金を使う、あるいは自分の幸せ

   のためにお金を使うのが良いと思います。子どもに残してもろくなことはないからです。

  ・年を取ると経験値が上がり、レベルの高いものを求めるようになる。強い刺激でしか心が動かな

   くなる、というわけです。私が「お金をつかいましょう」と言ったのには、それも関係していま

   す。レベルの高いものを求めようとすると、それ相応のお金がかかるからです。心を満たすため

   にお金を使い、思い出を残す。これが幸齢者の資産活用です。

 

  生きがいは求めない。楽しんでいるうちに見つかるもの

  ・生きがいがあることは幸せなのですが、あまりにも幸せだと、なくなったときの反動が大きいの

   です。やはり、日々を楽しく暮らす、という発想が大事なのだと思います。したいことをする、

   面白そうだと思うことはやってみる。そうやって日々気楽に一日一日を過ごしていくことが、

   80歳の壁の乗り越え方なのかもしれません。

 

 

 3.ボケ・認知症の壁を越えていく

  認知症は6000万人。幅のある障害だとしりましょう

  ・認知症は基本的には老化現象です。ただし、注意してほしいこともあります。それは、勘違いが

   増えることにより、詐欺などにあいやすくなることです。前に言われたことと、現在の話を比較

   することが難しくなる。そのため勘違いや、総合的な判断の誤りが起りやすくなるのです。

 

 

 4.高い壁を低くするヒント50音カルタ

  ・病気を心配しても始まらない。なるときはなるのだから、なったらなったで「出たとこ勝負」す

   ればいいのだ。今日元気に歩いている人が、1年後も歩ける保障はありません。歩かない生活を

   続けたら確実に歩けなくなります。残存機能を使わないと、瞬く間に衰えてしまうところが幸齢

   者の怖いところなのです。出来ることを自ら放棄し、何もできない体になってしまう。これって

   本当にもったいないことだと思いませんか。

  ・記憶力は「年を取ったから」ではなく「覚える気がない」から落ちていくのです。体の筋肉は、

   使わなければ衰えます。脳もこれと同じです。使い続けることが大切なのです。        
  ・80歳を過ぎた幸齢者の場合、「元気に長生きしたいなら血圧、血糖値、コレステロール値は薬で

   正常値まで下げない方がいい」です。

  ・90歳、100歳を超えても元気な人には、肉好きな人が多くいます。牛肉や豚肉には、セロトニン

   の材料となる物質が含まれており、これが元気の素になるというわけです。お肉を食べないとタ

   ンパク質が不足し、筋肉量や骨密度が減り、転倒や骨折をしやすくなってしまうのです。

  ・80代にとって病院は、遠ざけられない場所です。できるなら、かかりつけ医(主治医)を決めて

   おきましょう。住宅に近い内科医(町医者や訪問診療)がお勧めです。

  ・学ぶことをやめてしまった人は年老いる。学び続ける人はいつまでお若い・・・。

  ・「幸せホルモン」セロトニンを手っ取り早く増やすには、日の光を浴びるのが一番です。セロト

   ニンが減ると「うつ症状がでる」「衝撃的になりやすくなる」「体の痛みや不調を訴えやすくな

   る」「無気力になる」「感動が薄れる」などが起ります。1日に15分ほど、最低でも1週間に3回

   くらいは自然の光を浴びるようにしたいものです。

 

 

 エピローグ 人生100年の壁も越えていく

  ・人口の30%を占める幸齢者が、もっと好き勝手に生きたら、日本は確実に活性化します。

  ・赤ん坊のように、とはいいませんが、最後は「ありがとう」と素直に受け入れることが幸せにつ

   ながっていくのかもしれません。もう一つ、幸せのヒントがありました。それは、子どもたちの

   楽しそうな様子です。くだらないことにも夢中になったり、大笑いしたり、何でも楽しんでしま

   う能力があるのです。「幸せとは何か」の答えは人それぞれでしょうが、究極的な幸せは、やっ

   ぱり楽しむ能力なのだと私は思っています。楽しんでこその「人生100年」です。80歳の壁を越

   え、あと20年、新たに挑戦する日々を楽しみましょう。

 

 

 ●● ピークパフォーマンス方程式 ●●

  ・幸齢者はガンを切らない方がいい理由は、年をとっているほど、ほかの臓器にもガンがある可能

   性があるからです。病院の剖検では、85歳を過ぎればガンのない人はほとんどいませんでした。

   それを承知で、それでも切るのですか?という選択なのです。医師もそれはわかっている筈で

   す。なのに「手術が成功したら長生きできますよ」とは言っても「ヨボヨボになりますけどね」

   とか「そのうち他のガンも出てくるかもしれないですが」とは言ってくれません。目の前にある

   ガンを消すことが専門医の仕事だからです。

  ・年を取ったときの最大の財産は「思い出」だと私は思っています。最後はベッドの上で過ごす日

   が多くなります。そんなときに支えとなってくれるのは「あのときは楽しかった」という思いで

   です。もしも残せるほどのお金を持っているのなら、思い出にお金を使う、あるいは自分の幸せ

   のためにお金を使うのが良いと思います。子どもに残してもろくなことはないからです。

  ・80歳を過ぎた幸齢者の場合、「元気に長生きしたいなら血圧、血糖値、コレステロール値は薬で

   正常値まで下げない方がいい」です。