副 題:知行用訓評が息づく珠玉の語録

 編集者:ミン・ユンギ

     詩人、文化評論家、ジャーナリスト

 

 1.はじめに

  ・李健煕の言葉は、一言も衝動的に「突然」発したものではなく、熟慮の末に発せられたものだ。

   それは直観と勘すべて変えなさい」という言葉で有名になった。

  ・李健煕にはスティーブ・ジョブズも持っていない長所がある。五つの徳目を提示し、実践した

   点であり、実際に「知る(知)、行う(行)、人を用いる(用)、教える(訓)、評価する

   (評)」といった徳目の実践を怠らなかったのだ。

  ・こうした言葉の中から、人生の指標に定めたり、座右の銘としたりするに値する言葉を、一つ

   でも見つけて下さったら幸いである。

 

 

 2.変化と改革

  妻と子ども以外はすべて変えなさい 1993年

  ・結局、自身が変わらなければならない。変えるのなら、徹底的に変えなければならない。極端

   にいえば、妻と子ども以外は全て変えなさい。

  オフィスを出なさい。命令です 1993年

  ・だらだらオフィスに残っていないで、五時までに仕事を片付けて、全員オフィスを出て自己啓発

   しなさい。これは命令です。

  失敗は多ければ多いほどよい 1997年

  ・失敗は多ければ多いほどよい。何もせずに失敗しない人より、やって失敗した人の方が、ずっと

   有能だ。かれらこそ企業と国の財産になる。

  二十一世紀には医療産業が花開く 1997年

  ・二十一世紀に花を咲かせるのは医療産業だ。製造業が稼ぐのは半導体が最後になるだろう。まず

   は海外特許を確保することから始め、世界的な製薬会社の買収も検討してみよう。

 

 

 3.人材企業

  人材を探し育てることに、仕事の半分を捧げなさい 1997年

  ・経営者は自分の仕事の半分以上を、人材を探し、人材を育てるために捧げなければならない。

  企業はすなわち人だ 1997年

  ・企業はすなわち人だ。企業が必要とする人を育て、必要な時に、必要なところに使うことこそ、

   企業経営者がなすべきことだ。

  イエスマンVSノーと言える人 1997年

  ・イエスマンは問題を隠す。本質をしらず、知ったとしても言わない。堂々と自己主張する人は

   強情で妥協しがたいが、困った時の力になる。

  ミスは罪ではない 1997年

  ・サムスンの経営者たちに対する私の姿勢は、「信賞必罰」ではない。「信賞必賞」を旨として

   いる。ミスを犯したからといって罰を与えてはいけない。仕事でしくじるのは罪ではないからだ

  仕事を任せたら権限を与えて待とう 1997年

  ・いくら優秀な逸材であっても、ピント外れなポジションに使えば、能力が退化してしまう。そし

   ていったん仕事を任せたら、それに見合う権限を与え、我慢して待たなければならない。

 

 

 4.李健煕はこう考える

  頭脳こそ競争力だ 1997年

  ・国際競争力を備えた人材一人は、事業部1つに匹敵する。人材育成に時間と費用を惜しんでは

   ならない。

  自律性を欠いた組織に命はない 1997年

  ・自律性を欠いた組織は、死んだ組織だ。各自が権限に合った責任を担える組織こそ、発展する

   組織である。

  仕事の失敗を罰してはならない 1997年

  ・いい仕事をすれば賞賛される。有能な人材は評価されると、一層能力を発揮するからだ。した

   がって私はできるだけ処罰することを避けている。特に「彼を育てるには刺激が必要だ」という

   場合でなければ、叱責も控えている。どんな人でも罰を受けると、思考と行動が委縮してしまう

   と考えるからだ。

  お金を稼ぐのは人だ 2003年

  ・私は生涯を通じて80%の時間を、人材を集め、育成し、成長させることに費やした。サムスンが

   発展したのも、有能な人材を多く起用した成果である。

  エンジンになる人、歯車になる人 1997年

  ・エンジンになる人物はいつも、「私ならどうするか」を考える。誰かに指示される前に、自分か

   ら仕事を探す。問題の本質を掘り下げ、基本に忠実に、自らの責任を果たす。だからエンジンに

   ならないはずがない。逆に、「これが私の仕事」という当事者意識や「なぜ」という問題意識も

   持たず、言われた通りに働くだけの人は、歯車以外の何になれるだろう。

 

 

 5.未来への挑戦

  海外出張では有名店を観察する 1997年

  ・海外出張では有名店を巡る。買い物をするのではない。商品の陳列状態、目を引かれるユニーク

   な照明、店員の顧客に対する姿勢を観察する。つまり、名店の無形資産をリサーチするのだ。

 

 

 6.サムスンの継承

  確保したコア人材を成長させるため、いかに努力しているか 2002年

  ・コア人材を何人選抜するか。選抜するためにどれだけサポートしているか。確保したコア人材を

   成長させるため、いかに努力しているか。これらを社長の評価項目とする。

  大卒でなくても実力があれば理事になれる 2012年

  ・高卒でも実力のある者は、率直に抜擢しよう。課長にでも、部長にでも、理事にでも登用しよう

 

 

 7.私とサムスン

  技術植民地からの脱却に乗り出そう 1987年

  ・いつまでアメリカや日本に支配される半導体技術の属国に甘んじなければならないのか。技術

   植民地からの脱却に向けて、サムスンが先陣を切ろう。自らの私財も投じよう。

  私の人材に対する欲は、世界一強い 1993年

  ・私は人材に対する欲が世界で一番強い。少しでも他人より優れた人材、優秀な人材は、ただの

   一人も手放すことは出来ない。はした金の出費なんて気にも止めない。優秀な人材をさらに連

   れてきて、より効率を上げればいい。

  規制と権威主義という旧態からいまだに脱却できない 1997年

  ・日本はすでに経済大国になり、中国では指導部が先頭に立って、経済発展のリーダーシップを

   発揮しているというのに、我が行政と政治は、いまだに規制と権威主義とうい旧態から脱却で

   きていないという気がした。

 「企業は二流、行政は三流、政治は四流」という言葉がある 1997年

  ・偽らざる私の心情を表しているのが、「企業は二流、行政は三流、政治は四流」という言葉だ。

   日本では、この言葉が生まれて久しい。米国に追いつくために極端な言葉を使う事で、政治家

   と官僚、企業がひとつになり経済大国を実現してきたのだ。

  ・しかし、まるで政府を批判し、政界を罵倒するような言葉で伝えられた。当時の私の純粋な意図

   と思いは受入れられることなく、月を指差しているのに、月を見ないで指だけを見つめているよ

   うな現実に、大いに失望させられた。

 

 

 8.サムスン会長としてのメッセージ

  フランクフルト宣言 1993年

  ・この国際化時代に変わらなければ、永遠に二流、二・五流になってしまうだろう。今のままでは

   うまくいって一・五流だ。妻と子ども以外はすべて変えよう。

  1997年「新年の辞」IMF危機直前、危機意識に重きをおいて 1997年

  ・過去30年間は「やればできる」という「ハングリー精神」と、人の後を追う「模倣精神」で、

   世界がうらやむ経済成長の奇跡を生み出してきた。しかし、もはや従来型の模倣とハングリー

   精神だけでは、新しい時代を率いることはできなくなった。これからは自律的で創意的な当事者

   意識を持たなければならない。自ら奮起して情熱的に働き、その中で自己実現の喜びお味わおう

   自律と創造こそ二十一世紀の我々の社会を導く新しい「発展の原動力」であり「精神的推進力」

   になると固く信じている。今からでも十年先を見据え、世界標準となりうる技術の開発と無形資

   産の拡充に、グループの経営力を集中しなければならない。

 

 

 9.李健煕語録プラス98

  ・レスリングでも卓球でも事業でも日本にさえ勝てれば気分がいい。

  ・五輪で二位になれば銀メダルを掛けてもらえるが、ビジネスの世界で二位になっても何も返って

   こない。

  ・人材は連れてくるのではなく、迎えにいきなさい。

  ・失敗した者を切り捨てるな。彼の失敗に大金を注ぎ込んだのに、失敗したからといって放り出し

   てしまうのか。

  ・囲碁一級が十人集まっても、たった一人の一段にさえ勝てない。

  ・組織は若くなければならない。若くしなければならない。

  ・捨てるべきものは早く捨て、始めるべきことは早く始めなさい。

  ・壊れた瓶に水を注ぐな。穴を塞いでから水を注ぎなさい。

  ・世の中に偶然はない。一度結んだ縁を大事にしなさい。

  ・社員の待遇を上げる。これにまさる激励はない。

  ・未来のために最も先にすべきことは人材確保だ。

  ・成果を出す社員には、社長よりも手厚く報いなさい。

  ・人ほど尊い存在はない。人を大切にせよ。

  ・五人でやるべきことを四人でやれば、もっとうまくいく。その理由を考えてみなさい。

 

 

 10.スペシャルエビローグ「新経営」の出発点「福田報告書」より

  世界を動かす超一流企業は、一夜にして成らず

  ・サムスンの企業経営は1993年以前と以後に分けられる。1993年、サムスン電子に在籍していた

   四十代の日本人デザイナー福田民郎(たみお)が作成した「福田報告書」が李健煕会長を刺激し

   「新経営」を触発するきっかけとなった。「福田報告書」がサムスンの革新を触発し、超一流企

   業としての出発点となった。

  ・組織がなかなか変わらない為、李健煕会長は「知行三十三訓」という行動指針を出すまでに至っ

   た。「知行」とは「知る(知)」「行う(行)」「人を用いる(用)」「教える(訓)」「評価

   する(評)」といった徳目であり、サムスンを二流から一流に、さらに超一流へと変化させてい

   く李健煕会長の革新的な哲学が盛り込まれている。

  ・福田氏が書いた報告書は、一向に変わらない経営陣の行動を辛辣に指摘する内容だった。「李健

   煕会長にとってはデザインの戦略書ではなく、サムスンの根強い二流意識を指摘した報告書だっ

   た。」と、元サムスン幹部は語った。

  ・李健煕会長は、サムスンの問題点を指摘し、「新経営」を宣言する。「結局、自身が変わらなけ

   ればならない。変えるためには徹底的に変えなければならない。極端に言えば、妻と子ども以外

   はすべて変えなければならない」と主張した。

  十五万台の不良品火刑式

  ・原則は徐々に根を下ろし、不良品を絶対に許さないサムスンの哲学は、世界の消費者に信頼をも

   たらした。2020年、サムスンは半導体をはじめ、テレビ、スマートフォンなどの分野で世界一

   となり、超一流企業へと成長を遂げた。

 

 

 ●● ピークパフォーマンス方程式 ●●

  ・イエスマンは問題を隠す。本質をしらず、知ったとしても言わない。堂々と自己主張する人は

   強情で妥協しがたいが、困った時の力になる。

  ・サムスンの経営者たちに対する私の姿勢は、「信賞必罰」ではない。「信賞必賞」を旨として

   いる。ミスを犯したからといって罰を与えてはいけない。仕事でしくじるのは罪ではないからだ

  ・エンジンになる人物はいつも、「私ならどうするか」を考える。誰かに指示される前に、自分か

   ら仕事を探す。問題の本質を掘り下げ、基本に忠実に、自らの責任を果たす。だからエンジンに

   ならないはずがない。逆に、「これが私の仕事」という当事者意識や「なぜ」という問題意識も

   持たず、言われた通りに働くだけの人は、歯車以外の何になれるだろう。

  ・自ら奮起して情熱的に働き、その中で自己実現の喜びお味わおう。自律と創造こそ二十一世紀の

   我々の社会を導く新しい「発展の原動力」であり「精神的推進力」になると固く信じている。

  ・世の中に偶然はない。一度結んだ縁を大事にしなさい。