村上 春樹  投稿日:2019年 4月24日(水)22時22分51秒
 
  
  第1部:顕れるイデア編、第2部:遷ろうメタファー編

 当著には大きな期待をもった。というのも、村上氏に久々の本格的長編の書き下ろしであるからだ。アマゾンの評価が大きく割れるのは期待が大きいが為と思い渉猟した。

第1部では、直ぐに引き込まれ、さすが村上氏だと思い、その比喩や展開に引き込まれた。
過去にあった、1章ごとに別の展開とは違い一つの流れであったが、これから何が起きるのかととても楽しみにした。

スバルフォレスターの男は何者なのか? 東北で一夜を共にした若い女との関係性はどうなるのか? ワクワクした。そのうちに、突然、騎士団長が出現した! イデア?ってなんだろう、後に明確になるのだろうか? 妹はどうなったのか? 雨田具彦(ともひこ)氏の幽霊はなんだったのか? 行方不明になった少女(秋川まりえ)は免色氏の娘なのか? 免色氏が何かしでかすのか? 免色氏は秋川笙子が目的だったのか? 別れた妻が妊娠、だれの子供なのか・・・。

いつものことではあるが、釈然としないまま・・ぼーっとフェイドアウトしてしまった感じだ。ここしばらくの著書の中では、少し残念な内容と言わざるを得ない。

それでは、マーキングした箇所の確認と、アマゾン書評を参照してみよう。

【マーキング】
・私が求めたのは、あるいは必要としたのは、そこにある前向きな意思と煌(きらめ)きだ
  った。
・日が暮れるとワインのボトルを開け(時折ワインを飲むことが当時の私にとっての唯一の
  贅沢
 だった。もちろん高価な物ではないが)、古いLPレコードを聴いた。
・私自身は古い時代のジャズを聴きながら料理をするのが好きだった。よくセロニアス・モ
  ンクの音楽を聴いたものだ。『モンクス・ミュージック』が私のいちばん好きなモンクの
  アルバムだ。
・考えないことが何より大事だった。私は思考の回路をできるだけ遮断し、その色を構図の
  中に思い切りよく加えていった。
・一般的に人が入り込める大きさを持つ穴を「ふうけつ」、入り込めないような小さな穴を
 「かざあな」と呼び分けていること。

・食べかけの皿を途中で持って行かれた猫のような顔つきだった。
・南京虐殺事件・・・日本軍には捕虜を管理する余裕がなかったので、降伏した兵隊や市民
  の大方を殺害してしまいました。
・とにかくおびただしい数の市民が戦闘の巻き添えになって殺されたことは、打ち消し難い
  事実です。
・帝国陸軍にあっては、上官の命令は即ち天皇陛下の命令だからな。
・リヒアルト・シュトラウスの『薔薇の騎士』をターンテーブルに載せ、ソファに横になっ
  てその音楽を聴いた。とくにやることがないときに、そうやって『薔薇の騎士』を聴くこ
  とが私の習慣になっていた。

【参考書評】
年長者の余裕というのか、構成がカッチリと仕上げられている。なんか余裕が出てきてしまったな、という感じがしないでもない。もっとも糸を編むように物語を紡いでいくやり方を取っている以上、結果としてそのように見えるというのは、天性の才能なのだろう。この構成と語りの強さは、これまでも様々な批評を弾き飛ばしてきた源であるように思う。とにもかくにも「平易な文章で読ませる」という点で他の作家の追随を許さない。
辛辣なレビューが多いが内容を把握しきれていないのではないのか?とも思う。解説本として「みみずくは黄昏に飛び立つ」を併読すると理解しやすいと思う。イデアとメタファーについては何も考えずに思いつきでつけた、みたいですが、そうは思えない。イデアについては、かなり重要な位置を占めているし、イデア論の投影のごとくイデアがまさにイデアとして小説内に登場している。小説の中の中核の流れは、問いを立てて、あとは読者が考えてね、という幅を持たせるやり方は相変わらず変わらない。
「わかる人にはわかる。見つけられる人には見つけられる」という少々傲慢なスタンスが持ち味なのだろう。そこが鼻につく人には向かないかもしれない。

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構成としては「ねじまき鳥」や「1Q84」と同様。
作者インタビューでは「自分でも3部があるかどうかわからない」と答えている事から、現時点では完結しているかどうかも不明。
読後感としては、これで終わりでもいいし、「免色」や「火事の真相」など残された謎の回収があってもいいと思った。
ただ、いちファンとして感覚的に答えるなら、恐らく続編は執筆中だと思われる。
特に「免色」については、多くの「謎」が謎のまま過ぎると思う。

物語のジャンルとしては広義の意味でミステリーとなるのだろうか。
時代設定は2005~2006年(まりえの年齢から推定して)。ただ後半は精神世界を彷徨う話なのでファンタジー色も強い。その媒体として「日本画」や「石室」が登場する。

自分は主人公と同世代だが、僕の世代でレコードに愛着がある、という設定は流石に無理がある(笑) まぁ、そこは御愛嬌かな・・。
やはり春樹が36歳の若者?を描く以上、そこには60年代後半の古典的な雰囲気を感じる。
それは友人の雨田の描写にも言える。

何とも不思議な話だったか、それでも僕の年齢が抱えている問題等、すごくリンクして面白かった。
御年68にして、まだこの鮮度の文章を書きますか。
もはや作家に年齢なんかカンケーねーな、と思ってしまう。