生物と無生物のあいだ

  福岡 伸一  投稿日:2014年 2月26日(水)11時56分44秒
  
  ・生命とは何か?それは自己複製を行うシステムである。これが20世紀の生命科学が到達した答えであった。
・人間が肉眼で捉えることが出来る最小粒子の大きさはおよそ直径0.2mmである。

・野口英世の米国での評判はあまりよくない。寧ろ、酒乱・プレイボーイという評判だった。野口英世没後、50年たって再評価が行われたが、彼の業績で今日意味のあるものは殆どない。
・野口英世が黄熱病で倒れたのは1929年。当時、世界はウイルスの存在を知らなかった。彼が生涯をかけて追った黄熱病も、狂犬病も、その病原体はウイルスによるものであった。
・ウイルスは栄養を摂取することがない。呼吸もしない。一切の代謝を行っていないのだ。ウイルスが単なる物質から一線を画している特徴、それはウイルスは自らを増やせると言う事
・ウイルスは自己複製能力をもっているのだ。
・ウイルスは生物と無生物の間を揺蕩う(たゆたう)何者かである。もし生命を「自己複製するもの」と定義するなら、ウイルスは紛れもなく生命体である。しかし、私はウイルスを生物とは定義しない。つまり生物とは自己複製をするシステムである、との定義は不十分だと考えるのである。

・TVなどで見るDNA鑑定の結果は、バーコードのようになっているが、バーコード一本あたりに10億コピー以上のDNA分子が必要となる。
・それを可能にしたのが、PCRマシン(ポリメーラ・チェイン・リアクション:ポリメラーゼ連鎖反応)である。これは任意の遺伝子を、試験管の中で自由自在に複製する技術である。これは分子生物学に本当の革命を起こした。
・ヒトのゲノムは30億個の文字から成り立っている。1ページに千文字を印刷して1巻千ページとしても全3千巻を要する超一大叢書である。

・シューティンがーは、原子の振る舞いが、絶えず全く無秩序な熱運動に翻弄されている様子を示す。そのひとつがブラウン運動である。
 原子そのものは直接見ることが出来ないが、小さくて軽い粒子、例えば水面に浮かぶ花粉や空中に浮かぶ霧(微小な水滴)の動きは顕微鏡で追うことが出来る。すると粒子は絶え間なく不規則な動きをしていることが分る。これがブラウン運動である。
・粒子全てが同じ動きをするわけではなく、1割位は平均とは違う動きをしてしまう。仮に100個の原子から成り立つ生物だとすると、これは致命的な精度となるが粒子の数が増えれば、誤差率は急激に低下する。
◎生命体に必要な秩序の精度を上げるためにこそ、「原子はそんなに小さい」、つまり「生物はこんなに大きい」必要があるのだ。

・私達はしばしば「お変わりありませんね」等と挨拶をするが、半年、一年もすれば分子レベルでは私達はすっかり入れ替わっていて「お変わりありまくり」なのである。
◎私達、生命体はたまたまそこに密度が高まっている分子の淀みでしかない。しかも、それは急速に入れ替わっている。この流れ自体が「生きている」ということであり、常に外部から分子を与えないと、出て行く分子との収支が合わなくなる。
◎生命とは代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿である。生命とは動的平衡にある流れである。
◎生物は、原子・分子に比べて何故大きいのか? それは粒子の統計学的ふるまいに不可癖の誤差率の寄与を出来るだけ小さいものにする為である。


●● ピークパフォーマンス方程式 ●●
・生命体とは密度が高い分子の淀みでしかなく急速に入れ替わってい
  るこの流れ自体が「生きている」ということ。
・生命とは代謝の持続的変化であり変化こそが生命の真の姿である。
・生物が原子・分子に比べて大きい理由は、粒子の約1割は平均と違
  う動きをしてしまい、粒子の数が少ないと突然変異が起きる為、粒
  子の数を多くすることでそれを防いでいるのだ。