フラット化する世界上・下

  トーマス・フリードマン  投稿日:2011年 9月10日(土)09時08分23秒
 
  ◆グローバリぜーションが大きな3つの時代として存在した!
・コロンブスが航海に乗り出し、旧世界と新世界の間の貿易が始まった1492年から1800年頃までが、グローバリゼーション1.0。2.0は1800年から2000年まで続いた。2.0における変化の重要因子は多国籍企業だった。そして、2000年前後に全く新たな時代に突入した、それがグローバリぜーション3.0だ。
・1.0の原動力は国のグローバル化。2.0の原動力が企業のグローバル化。3.0は、個人がグロ-バルに力を合わせ、またグローバルに競争を繰り広げるという、新しく得た力なのだ。

・知的職業に携わる人は、人間同士の絶妙な触合いに精通しなければならない。何故なら、デジタル化できるものは全て、もっと賢いか、安いか、その両方の生産者にアウトソーシングできるからだ。
・インド版シリコンバレーと言われるバンガロールでは、英米の主要都市の5分の1以下の給料や家賃で住む。コールセンターの仕事は、アメリカでは低賃金で社会的地位も低いがインドでは、高賃金で社会的地位も高くなる。
・インドでは、夜に働き、昼間に学校に行って、徐々に生活水準を向上させる。20代に勉強するのが当たり前な環境にある。

・バンガロール同様、中国の大連は日本のアウトソーシングの中心になっている。大連では日本人エンジニアを一人雇う金で中国人を3人雇い、そのお釣で、コールセンターのオペレーター(月給90㌦)を部屋いっぱい雇うことが出来る。

◆世界をフラット化した力
①1989年11月9日ベルリンの壁崩壊
・ソ連帝国が消滅。共産主義は、人を平等に貧乏にするという点では偉大であったが、資本
 主義は人を不平等に金持ちにする。
・1991年、ドル建て外貨準備高が枯渇しかけたインドは、経済の開放を決断。ベルリン
 の壁崩壊は、インド、ブラジル、中国、旧ソ連の何十億人に、それまで抑えられていたエ
 ネルギーを放出させた。
・ウインドウズ・PCの勃興は、別の巨大な障壁を取り除き、パソコンの使用を一般化した。
 個人が蓄積し、操作し、ひろめられる情報の量に、制約がなくなった。

②インターネットの普及と、接続の新時代
・インターネットで簡単に閲覧できるようにするシステム、ワールド・ワイド・ウェブの
 基本概念は、ティム・パートナーズ・リーというイギリス人が開発した。そして、彼は
 独占権を行使せず、自由に使えるようにした。HTMLを一般にひろめ、それがウェブ
 の共通言語となった。これは現代史上で最も重要な発明の一つなのだ。
・光ファイバーは「人間の毛髪ほどの太さの」ガラスの紐なのだ。最も重要な利点は、き
 わめて高い周波数域の信号を長距離送信出来ることにある。銅線では、わずか数m進ん
 だところで出力が劣化するが、光ファイバーは逆に、劣化させることなく、とてつもな
 く遠くまで送信出来る。
・ITバブルの崩壊が起きると、光ファイバーは完全な飽和状態となった。
・ウインドウズによるフラット化の第一フェーズでは、自分のコンピューターと交流した。
 第二フェーズでは、よそのコンピューターとも交流出来るようになった。それが電子メ
 -ルの意義だ。次にコンピューターは誰のウェブサイトとでもインターネットで交流で
 きるようになった。これがブラウザの意義だ。

③共同作業を可能にするソフトウエアが開発された
④アップローディングが出来るようになった(ウィキペディア等)
⑤アウトソーシング(インドの目覚め)
⑥オフショアリング(中国のWTO加盟)
・アウトソーシングは、社内の限定的な機能を他社に果たさせるが、オフショアリングとは
 工場を丸ごとそっくり中国に移してしまうというもの。
・日本政府は、中国が政治的混乱によって平坦ではなくなった場合に備えるべく、生産拠点
 について他のアジアの国にも軸足を置く「中国プラスワン」戦略を推奨している。

⑦サプライチェーン(ウォールマート等)
・WMは移動する商品がいまどこにあるかを見ることが出来る。スペインのアパレル製造小
 売チェーンのZARAは、ことに長けており、在庫過剰よりは不足の方が利益につながる
 という方針を貫き、電撃的早さで不足を補い、客が欲しがっている品物を提供する。
・デルは、客の望むだけの数のコンピュータを製造する。
・WMが世界最大の小売業者になったのは、接触する全ての相手と厳しい駆け引きをやるか
 らだろう。WMは、商品をメーカーが全て纏めて遅れる物流センターを作り、自社のトラ
 ックで配達をした。この採算は・・、物流センター運営の為にコストが平均3%上昇する
 が、じかにメーカーから買う為、仕入れ原価は平均5%下降する。差し引き2%コストを
 下げる事が出来るのだ。WMは大きな力で仕入価格を最後の半セント(50銭)まで値切る
 のだ。

⑧インソーシング(UPSのビジネス等)
・どんな企業でもがWMのようなサプライチェーン網を築く経済力があるわけではない。そ
 こでインソーシングが生まれた。貨物取り扱い業のUPSのエンジニアが企業内部に入り
 こみサプライチェーン全体を管理するというもの。

⑨インフォーミング(≒検索:)
・検索は、。個人に情報、知識、エンターテイメントのサプライチェーンを創りあげて展開
 する能力をあたえる。
⑩ステロイド(新しいテクノロジーが加速)

◆三重の集束
・第一の集束は、ベルリンの壁崩壊、パソコンの普及、ネットスケープ、ワークフロー、ア
 ウトソーシング、オフショアリング、アップローディング、インソーシング、サプライチ
 ェーン、インフォーミング、ステロイドといった全てが、互いに強化している事。
・第二の集束は、素晴らしい機械があっても、社員が仕事上の慣わしを変えない限り、オフ
 ィスの生産性は上がらない。1人の知恵よりも多数の知恵の方が優れている。映像を水平
 に反応するするシステムをつくれば、全員の知性を利用できる。これら現在進行中の作業
 が第二の集束である。
・第三の集束は、より水平な競技場が完成し、西側諸国の企業と個人が中心となっていた所
 に、それまで競技場から締め出されていた30億人が、あらゆる人達と自由にプラグ&プ
 レイできるようになったことだ。

・三重の集束により、フラット化した世界のプラットホームは、壁と屋根と床を実質上、一
 気に吹き飛ばした。光ファイバーとインターネットとワークフロー・ソフトウェアが世界
 を結ぶと、共同作業を阻んでいた壁が吹き飛ばされた。いまやそれが臨界点に達し、これ
 まで以上に多くの人間や国を巻き込もうとしている。

◆新ミドルクラスに必要な人材
・新しいアイデアを製品にし、成功するには、チームが必要。そうなると、仲間とうまくや
 っていける人間が必要だし、。口のきき方を知っていて、チームに説明し、いい意味での
 刺激を与えられるようなリーダーの存在が重要になる。
・未来は常に新しいことが待ち受けている。よって、絶えず勉強するしかない。学びつづけ
 る責任は自分一人が負っている。仕事を続けるには、幅広い視野を育てることが必要。

・大卒者の読み書き能力の低下は、最近の若者が空いている時間にTVを見たり、ネットサ
 -フィンをしていることが原因と考えられる。「楽しみのための読書がかなり衰退し、そ
 れが読み書き能力のレベルに表れている」のだ。
・ある仕事を海外に移転すると、賃金は75%となり、生産性は100%向上するのだ。何
 故ならば、アメリカでは低賃金で社会的地位の低い仕事でも、インドでは高賃金で社会的
 地位の高い仕事になり、安い賃金でずっと意欲的な労働者が手に入るからだ。

◆アメリカの貧困層の教育の欠陥
・アメリカでは権限委譲により、教育を地方の教育委員会に任せ教育制度を纏めたが、出来
 上がったものは、「富裕層によって組織される」地方の教育委員会に教育の権限を委譲す
 る玉石混淆のシステムだった。富裕層が集まれば、低い税負担で、高い教育費を捻出出来
 ることとなった。1960年代には、各学校で実質的な人種隔離が進み、子供を持つ白人が街
 を出てしまい、後には人種と階級の両方で隔離された街が残った。これがスラムを作った
・中国では100万人に1人の人材といえども、中国全土では1万3千人も100万分の1
 の優秀な人材がいるのだ。

◆政治的リーダーシップ
・IBMで何十億ドルもの損失を出した1993年に会長に就任したルー・ガースナーは
 ハーバード・ビジネススクールでの「企業の変革は危機感と切迫感から始まる」の講演
 で告げた。「状況が酷くなり、生き残るためにはこれまでと違ったことをやらなければ
 ならないと思い知るまで、組織というものは根本的に変わろうとしない」と。
・ガースナーは終身雇用を止め、エンプロイアビリティ(雇用される能力)という概念に
 置き換えた。会社が雇用を保証するのではなく、社員自身が雇用されるだけの能力があ
 る事を証明しなければならなくなった。
・ガースナーは個人の強化という点を力説した。「並外れた企業は、並外れた人間が必要
 不可欠な人数いて初めて成り立つ」と。

◆優良企業は、縮小する為ではなく、勝つ為にアウトソーシングする。
・多くの職種で人員募集をしている、どの職種も知識労働だ。我社は拡張している。人を
 雇おうとしている。人員を増やして、新しいプロセスを生み出そうとしている。この動
 きが大部分のアウトソーシングの本来の目的なのだ。
・企業は、コストを減らして縮小する為ではなく、知的能力の高い人間を獲得して迅速に
 事業を拡大する為にアウトソーシングするのだ。

・中国は、台湾へ侵攻した場合に報復措置をとる恐れのない国から石油供給を確保する事
 だけを考えている。その為に中国政府は、最も独裁的な政権と親密な関係を築いている
・「もっといい方法がありますよと言われても、人間は変わらない。ほかに方法がないと
 いう結論に行き着いたときに初めて変わるのだ」


●● ピークパフォーマンス方程式 ●●
・IBMでは、組織を根本的に変える為に終身雇用を止めた。そして社員自身が雇用され
 るだけの能力がある事を証明しなければならない体制を作った。
・人間は、もっといい方法があると言われても変わらない。他に方法は無いとなって初め
 て変わるのだ。