「1秒!」で財務諸表を読む方法

  小宮 一慶  投稿日:2011年 6月18日(土)07時42分30秒
 
  ①貸借対照表
・従来は自己資本を経営者が自分のものとして扱うがごとき経営が行われていた。しかし、資本は紛れも無く株主のもの。
・株主は負債とは異なるリスクを引受けて資金を会社に提供している。よって、資本は自己資本ではなく「株主資本」と呼ぶのが適当。
・2006年の会社法施行で、従来の資本が純資産となった。純資産の中で、資本金・資本剰余金・利益剰余金などを「株主資本」、それに「評価・換算差額等」を加えたものを「自己資本」、更に少数株主持分を加えたものが「純資産」と呼ばれるようになった。
・株主が企業に預けているのは、リスクがあるけども、国債より高い利回りが期待出来るからであり、そのプラスアルファ分を『リスクプレミアム』と言う。
・負債の調達コストよりも、純資産の調達コストの方がずっと高い。これが上場企業では問題になる。<WACC(ワック)=負債と純資産の調達コスト>
・トヨタが無借金でないのは、上記のように純資産の調達コストは負債よりずっと高い。よって、トヨタは、有利子負債を調達し、バランスシートを資産と負債両方で膨らませることにより、WACCを下げている。超優良企業であるが故の悩みなのだ。
・花王がカネボウの化粧品部門を買収した理由のひとつは、買収防衛の意味合い。思惑通り利益やROAが上昇すれば株価が上がり、時価総額(株価×株数)が上がる。それにより敵対的買収者が買収を仕掛けにくくなるのだ。
・2007年には、「三角合併」により、外国株式を対価とした「株式交換のM&A」が認められた。外国企業は、現金でなく、自社株式を対価として日本企業を買収することが可能になったのだ。
・スティールパートナーズが、ブルドックソースの買収をしようとしたり、サッポロや明星食品の株式を買い集めた、「儲かる」根拠は・・いずれの会社も「自己資本比率」が高く「ROE(自己資本利益率=純利益÷自己資本)」が低い会社であるからだ。
・ROEで使う利益は、必ず純利益を使う。その理由は、株主に帰属する利益は、税金を支払った後の純利益だからである。
・ROAで他社比較をする際には、営業利益だけでなく、経常利益でも純利益でもよい。
・自己資本比率が低いほど、同じ利益を出していても、ROEは高まる。株価対策からも、ROEを高めるべき。しかし、優先順位としてはROAを高めることによりROEを高めるべきなのだ。
・経営者には、負債と純資産に対し責任があり、それに見合ったリターンを出す必要があるそれがROA(資産利益率)なのだ。
◎ROEが第一では、株主が一番で、負債は二の次といっているのと同じ。それでは負債を提供する社債権者や銀行に対して失礼な考え方になる。だから・・ROA(資産利益率)を高めるよりROE(自己資本利益率)を高めるという健全な考え方が必要なのだ。
・イオンはダイエーを関連会社にし、子会社にしないのは・・子会社はPL・BSで親子間の取引を相殺した上で、各勘定科目を全て合算する。一方、関連会社は、合算はなく「持分法」が適用される場合には、持分に応じた損益が、損益計算書の「営業外損益」に計上されるだけ。よって、関連会社に関しては、損益計算書の営業外損益が変わるだけだから
 「一行連結」という呼ばれかたをする場合もある。子会社か関連会社かは、企業決算に大きな影響を与えることになる。
・イオンはダイエーを子会社にしなくとも、仕入れ先の共通化やシステム、データの共有ができれば所期(期待している事柄)の目的は達せられる。ダイエーがイオン傘下でありさ
 えすれば、連結の負債を増やし、表面的な財務内容の悪化を招く必要はないのだ。

②損益計算書
・一般には「売上げ」という言葉を使うが、会計的には「売上高」が正しい用語。所得」といい、財務会計上の利益とは違う。これは財務会計上
 の費用と税務会計上の損金との差によるもの。接待交際費などは、大企業では一切損金算入は認められない。接待交際費は財務会計上は「費用」であるが「損金」ではないから、税務計算上はその分多く税金を支払わなければならない。
・公認会計士は財務会計の専門家、税理士は税務会計の専門家。大企業は両方をやとっているケースが多いが、中小では税理士が両方をこなす場合が多い。
・プライマリーバランス(基礎的財政収支)は、収入と支出との収支を言う。企業会計でいえば営業利益に近い概念である。
・借入-現預金>年間の粗利益額になると、資金繰りはしんどくなる。
◎政府が財政赤字でも破綻しない理由は、信用が維持される限り借り換えが可能で、国債の期日がくれば借換え債を発行して返済期間を先延ばしに出来るから。もう一つは、借り換え時に5年を10年、20年を30年に返済期間を伸ばせるから、毎年の返済負担が減るからであるが、ツケを後世に回しているだけであることに変わりない。

③キャッシュ・フロー計算書(これが正式表記)
◎利益とキャッシュフローが違うのは、一つは減価償却費などお金の出て行かない費用がある為、もう一つは売掛金・買掛金・在庫があるから。
・CSのあるべき姿は、営業キャッシュフローがプラスで、投資キャッシュフローと財務キャッシュフローはマイナスになること。大切なことは、営業キャッシュフローを必ずプラスにすること。
・投資キャッシュフローを見るときの最大のポイントは未来投資をしているか否か。有形固定資産の取得≧減価償却費(これが未来投資額)になっているかがポイント。普通は減価償却費分くらい は再投資をしなければ現業維持するおぼつかない。単年度判断は出来ないが、長期に渡り減価償却費以下しか有形固定資産の取得を行っていないとすると、現業維持はジリ貧となる。
・借入増加や増資など資金調達としてキャッシュフローはプラスになるが、財務キャッシュフローが常にプラスなのは健全とは言えない。株主還元を行ったり、借入返済を行えば財務キャッシュフローはマイナスなのだから、財務キャッシュフローはマイナスなのが健全。
◎投資キャッシュフローと財務キャッシュフローを使い、そのキャッシュフローのマイナス合計が、営業キャッシュフローのプラスを超えないのが良い。
・企業の価値=将来のキャッシュフローの現在価値-有利子負債

④固定費と変動費
・設備投資を多く必要とする産業では、多額の固定費がかかるが、変動費はかからない。売上高に占める変動費の割合を変動比率というが、変動比率の低い事業はある一定の売上高(損益分岐点売上高)を超えると物凄く儲かることになる。
・楽天は売上高営業利益率25%と非常においしいビジネス。

⑤増し分利益
・航空会社として大切なことは、損益分岐点までの乗客を確保すること。
・変更不可能のチケットを販売することで、コップに一定量の水をためていくのと同じように、他社や他の便に変更できない乗客を確保して、損益分岐点にまで達するという目的がある。
・ホテルのディスカウントが、航空会社と逆のディスカウントをするのは、競争環境が違うから。ホテルの場合も、空いているなら安く出しても、変動費をカバーする料金であれば問題がない。
・JRが割引かないのは、直接的なライバルがいないから独占のメリットを活かして料金を維持することが可能だから。

⑥直接減価計算
Q:何故、液晶テレビの価格はどんどん下がるのか?
A:合成の誤謬によるものが大きい。
・合成の誤謬(ごびゅう)とは、個々の企業は合理的な行動をしているのに、全体として見た場合には、その行動の結果が最適とはならないこと。つまり、個別企業では大量に生産した方が、製品価格が安くなる。しかし、全世界のメーカーが生産規模を拡大すると、価格が下落し、それに対応する為に更に生産拡大でコスト削減を行う必要が生じる悪循環が
 生じるのだ。このような状況が続く限り、液晶テレビの値段は下がり続ける可能性がある
・償却が終わった後の利益率の急速な増加を考えれば、売値を少し安くしてでも、早く償却を終え、その後の利益を確保したほうが得という考え方も出来る。競争製品の場合には、価格を抑えて必要数量を早く生産して、他社より早く償却を終えてしまう戦略のほうが有利な場合も少なくない。

・財務会計上、一般の損益計算書では専門的に言うところの「全部原価計算」という考え方であるが、沢山作って在庫を増やした方が全部原価計算の損益計算書では利益額が増加するという欠点がある。
・売上原価は製造原価の中で、「売れたもの」だけが売上原価になる。在庫が増えることを覚悟して、大量に作れば作るほど、1個あたりの製造原価、売上原価は下がるから、在庫は増えるものの、損益計算書上の利益は表面的に「増える」ということになる。
・全部原価計算の欠点を克服するのが「直接減価計算」という考え方。これは、財務会計上の概念ではなく、企業内部で、パフォーマンスを把握する為に開発された管理会計上の概念なのだ。多くの製造業では、財務会計上の損益計算書を作るとともに、工場ごとのパフォーマンスの把握には直接原価計算を使っている。
◎売上高-変動費=限界利益or貢献利益という。
・直接原価計算のディメリット3つ、①実務的には変動費と固定費を分ける(固変分解)のが難しい。②製品1個あたりの原価を正確に把握する為には、再度全部原価計算を行う必要がある。③直接原価計算は、財務会計上認められていないため、財務諸表作成のためには、再度全部原価計算を行わなければならない。二度手間になる。

・タクシーの運転手の悲鳴の中で、何故台数が増えるのか?それは、タクシー会社としては1台あたりの貢献利益が、全社合計で固定費をカバーできないほど、余程少なくならない限りは、台数をふやせば増やすほど利益が上がる構造になっている。1台あたりの売上が下がっても、トータルでの貢献利益が固定費をカバーする限り、会社から見れば台数を増やすメリットがある。

⑧付加価値
・WACC(ワック)加重平均調達コスト⇒負債と純資産の調達コスト。
・ROA(資産利益率)⇒営業利益ベースのROAで5%は必要。<使っている資産からみて稼がなければならない利益>
・<株主資本から見て稼がなければならない利益>がROE(株主資本利益率)は純利益ベースで10%は欲しい。


●● ピークパフォーマンス方程式 ●●
・「リスクプレミアム」とは株主にリスクはあるが、国債より高い利回りが期待出来るプラスアルファ分のこと。
・ROEよりROAと言う理由は、ROEが第一では、株主が一番で、負債は二の次といっているのと同じ。それでは負債を提供する銀行等に対して失礼な考え方になるからROA(資産利益率)を高めるよりROE(自己資本利益率)を高めるという健全な考え方が必要。
・投資キャッシュフローと財務キャッシュフローを使い、そのキャッシュフローのマイナス合計が、営業キャッシュフローのプラスを超えないのが良い。
・企業の価値=将来のキャッシュフローの現在価値-有利子負債
・売上高-変動費=限界利益or貢献利益という。