この国を出よ

  大前研一×柳井正  投稿日:2011年 4月16日(土)10時27分57秒
 
  当著は元マッキンゼー日本支社長で、MITでは原子力工学科の博士号を持ち、世界の大企業や国家レベルのアドバイザーの大前研一氏(68歳)と、ユニクロ(ファーストリテイリング)の会長兼社長である柳井正氏の共著である。

(柳井氏)
・日本は現在900兆円を超える公的債務があるが、これはGDP対比で約200%に達しており、  金融危機で大混乱を引き起こしたギリシャの約120%を遥かに上回る異常値になっている。
・チャレンジなくして成功した企業はない。チャレンジには必ずリスクがつきものだが、リスクを恐れて何もしない事が一番の「リスク」である。
・日本は経済的成功を収めた事で自己満足に陥り、保守的になってしまった。その結果が、現在の低迷を招いているが、時代の変化に取り残されれば、昨日の勝者も今日は敗者となる。
・一度限りの人生、自分が主役となり、やりたい事を力いっぱいやらなければ、人生の幕を閉じる時に後悔しても取り返しがつかない。

(大前氏)
・日本の生命線とも呼ぶべき貿易の分野で何故、赤字が生まれたのか? それは、国内で作られる工業製品が国際競争力を失ってしまったからだ。
・日本は3年以内に国債デフォルト(債務不履行)の危機を迎えるだろうと考えている。

(柳井氏)
・多くの日本人は危機意識を持たずに錯覚している。驚くほど能天気な国民が能天気な政権をささえている。
・多くの日本人に共通するのは「そこそこの生活が出来ればいい」という非常に内向きな意識だ。
・日本のGDP成長率を他国と比較すると、日本の1%成長は「停滞」ではなく、相対的には「没落」していると捉えなければならない。切羽詰っても、国が答えを用意してくれると思っている。<会社も同様>

(大前氏)
・今では世界中の投資家が、石油や金、農産物などを買っていた資金を、大きなリターンが期待できる新興国へ振り向けるようになり、世界のマネーの流れが劇的に変わっている。
・もし日本が国債デフォルトの危機に直面したら、日本が保有する65兆円の米国債を売払わねばならなくなり、アメリカが窮地に追い込まれる。そうなると世界経済は間違いなく崩壊する。国債のクラッシュにより国民の金融資産は吹き飛び、預金が下ろせなくなる。その先にまっているのは、「ハイパーインフレ」。その結果、円の価値は瞬く間に下がる。
 ハイパーインフレに耐えられるのは「金」や「不動産」「外国通貨」などだけになる。
・民主党のマニフェストは、「こうなればいいな」のウィッシュリストであり、枝葉の部分は見えるが、幹の部分、すなわちどんな国にしようとしているのかということが、全く浮き上がってこない。
・世帯所得がへっている国は、世界的に見ても稀であるが、日本人にはその認識がない。バラ撒き政策が何故日本の沈没を招くかというと、圧倒的に数が多い「所得が平均以下」の人の要望ばかりを聞いていくと、当然、高収益企業や高収入の人から高い税金を取ることとなり、「平均」が更に下がっていくしかないからだ。

・ドラッカーの思想を一言で言えば、「経営者はこうあらねばならぬ」というゾルレン(当為=哲学で正にすべき事)の世界だ。ポスト・ドラッカー時代は分業化が進んでいる。90年代以降は、20年前の「エクセレント・カンパニー」のトム・ピーターズがもてはやされ)は「ハイ・コンセプト」のダニエル・ピンクかもしれない。(モチベーション3.0は必読)
・今は、混沌の中だからこそ、新しい知識と認識を持っている人と持っていない人では、仕事に大きな差が出てくる。

・日本は90年代、1人当りGDPが世界1だったが、今は20位ぐらい。2位以下なら20位で もいいかの状況に陥っている。「何故2位じゃ駄目なのか?」と仕分け人が聞いていたが、2位でもいいや、と認めた途端に、その分野で努力することに力が入らなくなるのだ。
・日本のビジネスマンは、仕事だけでなく、プライベートにも目標がない。「自分のやりたい人生」を生きていないがために、「サラリーマン」という看板を維持することに必死でプライベートも我慢するという悪循環に陥っている。
・若いうちにビジネスマンとしての人生が決まってしまうような国は日本だけだ。欧米でもアジア諸国でも、いわゆる「就職浪人」は当たり前で、大学卒業後でも2・3年就職が決まらない若者は掃いてすてる程いる。しかし、彼らは努力次第でいくらでも取り返せるから恥ずかしいなどとは微塵(みじん)も感じてない。
・日本のビジネスマンは、老後の心配はしているが、計画はしていない。今すぐ意識を変えて、目標を持ち、行動に移さない限り、助かる見込みはないと、強烈に自覚すべきである

・GEは、「企業の将来はリーダーが何人育つかにかかている」との考えに基づき、徹底し たリーダーシップ教育を実践している。業務もローテーションで様々な経験を積ませる点は、日本企業と根本的に異なる。
・サムスンは売上比1%の人材育成費を費やすが、日本ではせいぜい0.1%であり、その違いが世界市場での低迷に繋がっている。

(柳井氏)
・ファーストりテーリングでは、経営幹部育成機関FR-MIC(ファーストリテイリングマネジメント・アンド・イノベーション・センター)を立ち上げた。GEでは、グループワークを重視しているが、FR-MICでは社内の課題を個人で解決するプログラムを重視している。

(大前氏)
・ユニクロや楽天が英語を公用語化しているが、ソニーでさえ課長昇進の基準がTOEIC 650 点以上であるのに対し、サムスンでは920点。その英語力の差が業績の差にもでてきている、と言う人もいる。

(柳井氏)
・お客様から喜ばれ、社会から喜ばれ、働く社員から喜ばれる。近江商人が教訓とした「三三方よし(売り方よし、買い方よし、世間よし)」に、時代を超えた普遍の経営哲学を感じる。

(大前氏)
・世界の税制は激変しており、一定のトレンドがある。それは個人所得税と法人税の減税、そして相続税の廃止だ。個人所得税の最高税率は引き下げ傾向にあり、日本が50%(地方税10%を含む)に対し、アメリカが35%、スイスは11.5%、モナコは0%。所得税が低い スイスやモナコには、世界中から富裕層が移住してきている。
・法人税も同様に、日本での実効税率は約40%だが、ヨーロッパはだいたい25%、シンガポ-ルや香港、台湾などのアジア諸国は10%台まで下げている。
・今の税体系の根本を変えない前提ならば、所得税、法人税の大減税と相続税の廃止が有用な改革になる。日本が世界一のタックス・ヘイブンになればいい。所得税を免除されれば個人消費も活発化し、景気を押し上げる原動力となる。その時に消費税20%ということであれば、極めて有効に機能する。

・なぜ日本には一国のリーダーたりうる政治家がいないのか?それは勉強と経験をさせていないからだ。どの分野でも10年以上熱心に勉強しなければ力はつかない。政治家にキャリアパスとローテーションがないこと、落ち着いて勉強する時間がないこと、OJTで育てて
 くれる上司がいないことが最大の問題だ。

・日本の人口と公債発行残高のおよそ1万分の1のモデルが、2007年に財政再建団体に指定され、事実上の財政破綻をした北海道夕張市だ。夕張市の負債を人口比同様に1万倍すると日本の負債と同規模になるということは、日本全体が「夕張状態」であるということだ。
・かつて驚異的な高度成長を遂げた日本と似た潜在能力をもつ新興国が世界中に勃興している。無限とも言えるビジネスチャンスが広がっている。それを、指をくわえて眺めているだけでいいのかと問いたい。


●● ピークパフォーマンス方程式 ●●
・日本が国債デフォルト(債務不履行)になると、65兆円のアメリカ国債を処分しなければならなくなりアメリカも窮地に追い込まれる。その結果、世界経済が崩壊する。金融資産が吹き飛び、預金が下ろせなくなり「ハイパーインフレ」となる。そして円の価値が瞬く間に下がる。ハイパーインフレに耐えられるのは「金・不動産・外国通貨」等だけになる。
・日本は世帯所得がへっている稀な国。バラ撒き政策は圧倒的に数が多い「所得が平均以下」の人の要望ばかりを聞く為、高収益企業や高収入の人から高い税金を取ることとなり、「平均」が更に下がっていくのだ。
・近江商人が教訓とした「三方よし(売り方よし、買い方よし、世間よし)」は普遍の経営哲学である。