初めての方はこちらから↓

大学のいじめっ子①

大学のいじめっ子シリーズ登場人物まとめはこちら↓

大学のいじめっ子シリーズ 登場人物まとめ

 

冬休みが終わって4年生は各々所属する研究室が正式に決まった。

 

私は平面のデザインについてやりたかったのでデザイン学科の助教授の大出小三の研究室を希望して、なんとか希望通りに大出助教授の研究室に配属することになった。

ミンコとドキコも同じ研究室になった。

ミンコとドキコが私と同じく大出の研究室を希望していることは白石や日吉からの情報で知っていたが大学の固定化されていない人間関係に馴れきっていた私は「もう大学4年生だし同じ研究室だからってそこまで深くかかわることはないでしょ。それにそれぞれ卒業研究で忙しくなるからいじめなんていしてる暇ないでしょ」と考えてやりたいことを優先してミンコとドキコと同じ研究室を選んだのだ。

白石と日吉はミンコとドキコともう関わりたくないからと二人で大出の研究室に所属するようなそぶりを見せながら別の研究室を希望してそこに所属することになった。

 

私はミンコとドキコのせいでやりたいことができなくなってしまうのは違うと思って彼女らと同じ大出助教授の研究室を選んだがそれは大きな間違いだったと後から気づく。

 

研究室というのは1年間同じ部屋で研究をやっていくメンバーなのでなんだかんだで関わらなければならない。

 

毎週決められた曜日に研究の進捗報告というものをしなくてはならないし、研究室に行ってPCを使いながら調べ物をしたり報告書を作成したり、卒業研究の成果物の作成をすすめたりするので、卒業の時期が近くなればなるほど同じ研究室の人間が出入りや滞在時間が増えていくのでいやでも苦手な人間と顔を合わせる機会が増えていくばかりなのだ。

 

このときの私はそんなことがあるとは露も知らずミンコとドキコのことなど時間がたてば解決するだろうと楽観視していた。

二人と同じ研究室に所属することがさらなるいじめられる日常の、ストレスMAXのパワハラ・モラハラ自己愛強め集団からのターゲットになる日々の始まりだとは知らずに。

 

私と同じく大出助教授の研究室に配属されたのは私も含めて4年生男女8名と大学院生の女性1名。

大出助教授の研究室に配属が決まった私たちに大出助教授は自身が銀座で開催する入場料無料の個展に来るようという課題を与えられた。

期間は10日間でそのうちの一日でもいいから見に行ってその際に来場者名簿に名前を記入していくというものだった。

 

銀座は私が通うB大学のキャンパスからも学校近くの寮からもとても遠い場所にあって、交通費はもちろん自費だったので少し気が重かったがこの程度でへこたれていては、これからも都内で生活なんてできないと思い個展に行った。

(往復で1000~1500円くらい。人によっては安い方だが貧乏苦学生にはまぁまぁの出費)

 

大出の個展に行った際にミンコやドキコと遭遇してしまったらどうしようと思っていたが、私が言った日にはミンコとドキコは来ておらず、個展は小さなビルの地下で行われていて大出助教授が作った大型~小型の作品が数点並んでいる小規模なもので滞在時間は大出助教授と会話した時間なども含めて20分程度だった。

思ったよりもあっさりと課題が終わったので私はその日は同時期に他のビルでも行われている他の入場料無料の個展に立ち寄ったりして普段は行かない銀座付近を満喫した。

 

 

そして次の週の月曜日に初めてのゼミが行われた。

その時、大出はゼミについての説明を一通りしたあとにこう言った。

 

「この中に僕の個展に来なかった人間が一人います」

 

(え?何?)

 

教室内に緊張が走り、ゼミの学生たちはざわつき「誰だ、誰だ」「なんだなんだ」と周囲を見渡し始めた。

 

「音無さん、どうして僕の個展に来なかったんですか?」

 

(え?!音無?!)

 

私は隣に座っていた音無の方を見た。

音無は大出に名指しされたことで恐怖を感じてびくびくと小動物のように震えていた。

 

「どうしてですか?何か大事な用事でもあったんですか?ただ10日間のうちの一日だけ僕の個展に来ればいいという簡単な課題なのにどうしてそれだけのことができなかったんですか?

 

「あ・・・その期間は部活の合宿中で都内にいなくて・・・」

 

「その部活って何の部活ですか?合宿というのは何日間行われたものなんですか?」

 

「・・・・」

 

大出は穏やかだがどこか冷たい感じのするトーンで追及するように音無に話しかけた。

音無は大出の態度に恐怖を感じてそれ以上離せなくなってしまいそのまま無言になってしまった。

教室内が静かになりゼミの参加していたメンバーのの視線が音無に集まって音無はさらに身体を縮こまらせてしまった。

 

音無は派手に自己主張をするタイプではなかったが特別無口なタイプでというわけではなく私や仲良しの友人たちとは楽しく会話する子だった。

だが、大勢に注目されるようなで状況でピンポイントで話しかけられたりすると無口になってしまうタイプの子だった。

私はこのままではさらに大出が何も言えずに黙っている音無に対して激高してその様子を見た音無がさらに委縮して何も言えなくなるのではという展開を想像してしまい「このままではまずい!なんとかしなきゃ!」と思い行動に出ることにした。

 

「音無が入ってる部活って確か吹奏楽部だったよね?」

 

私は音無を怖がらせないように音無が話しやすいように、慎重に、大出が音無にした質問を再度してみた。

 

 

「うん・・・」

「その合宿って何日間だったの?」

「えぇっと・・・一週間くらい・・・」

「そっか~」

 

音無は小さな声でおそるおそるだが質問に応えてくれた。

だんだんと話せるようになった音無に対して大出はこう言った。

 

「部活というのも学生時代に大切かもしれませんが、それは僕のゼミの課題をさぼってまで打ち込む価値のあるのですか?吹奏楽部・・・ねぇ」

 

大出は嫌味っぽく音無を見ながらそう言った。

B大学はスポーツ推薦などで入学してくる学生も多いのでそのような強豪の部活に入っている学生ならばある程度は大目に見ようと思っていたのだろう。

 

(もしスポーツ推薦で我がB大学への入学が決まった際の学科選びでうちのデザイン学科を選んでしまうと在学中は部活のレギュラーに選ばれなくなってしまうくらい課題が多くて必修の講義も多くて忙しい)

 

うちのB大学の吹奏学部はそのようなスポーツ推薦を積極的に行っている体育会系の部活に比べて特別強豪というわけではない。

そのことから大出は「レベルの低いうちの文科系の部活で合宿?それは自分のゼミの課題をさぼってまでやる価値のあるのものなのか?」というような意味あいを含んだような言い方をしたのだ。

 

大出のやり方は正しいようで、個人を人前でつるし上げて嫌味をいうという行為はいくら課題をさぼってしまったとはいえやりすぎだ。

確かに音無には合宿が終わってからもまだ2~3日はあったので合宿が終わってすぐにでも大出の個展にいけば今回のような事態にはならなかった。

 

そして、大出からそのような意味を含んだ言葉を言われて音無はすぐにそうすればよかったと思い反省した。

 

それなのに、大学の担当助教授の個展に行かなかったということは、ねちねちと時間をかけて人前で恥をかかせるように責められなければならないレベルのことなのか?

私にはそれがわからなかった。

 

私はこのときうっすらと大出が音無に対してした説教は、ナルシストで自己中な芸術家気質から来るもので、自身の個展の来場者数をあげることに貢献しなかった、自分の作り上げた素晴らしい作品を見に来なかった不届き者への説教なのではないかと思った。

そしてそれはその後に当たっていたことを知る。

 

「はい・・・すいません・・・・」

 

音無は大出に対して消え入るような声で謝罪をした。

その姿を見て満足したのかその日は大出は音無をそれ以上責めることはせず、他のゼミ生に対しては今回音無がしたように課題をサボらないようにという注意喚起のような言葉を行ってその日のゼミは終わった。

 

音無は大出に責められたことで意気消沈していて

 

「Watako・・・ありがとね。私、すごく悪いことしちゃった・・・」

 

というと教室を出て行った。

申し訳なさそうに教室を出ていく音無に対して私はそれ以上何も言えずに黙って見送った。

 

「ね~今日まじやばくなかったぁ~?ね~ミンコ~」

「わかる~wwwwマジやばいよねwwwww私はあんなヘマしないようにしよ~っと」

 

そんな私と音無の姿を見てミンコとドキコはどこかエンタメのように面白がって笑っていた。

 

大学のいじめっ子⑩