永年勤めた消防の仕事を定年退職後、数少ない趣味の一つというか、有り余る時間の有効活用、暇つぶしの手段として、近くにある公民館や高齢者福祉センターの図書室で暖房にあたりながら、本を読むという贅沢な時間を過ごすことが多い。

 

 

家の中にいたら粗大ごみになるし、電気代の節約にもなるし、ボケ防止にもなるし、有難いことである。

 

 

幸せなことである。

 

 

若い頃は歴史物や時代小説、ノンフィクション、自己啓発本等に夢中になっていたが、最近では肩の凝らない一気に読めるような本を好んで読んでいる。

 

 

そういう中にあって、今回は発売と同時に大ベストセラーとなった、村上春樹の「街とその不確かな壁」を早くから公民館に貸し出し予約をしていたところ、約半年ぶりに順番が回ってきて読むことが出来た。

 

 

 

毎年ノーベル賞の時期になると、文学賞の候補者として注目される村上春樹の作品はどんなものかと興味を持ち、これまで「ノルウェイの森」「1Q84」「騎士団長殺し」「色彩を持たない多崎つくると、巡礼の年」等と目を通して来た。

 

 

正直言って、全世界で熱烈な愛読者に読み継がれているというのに、私の無学・無教養な読解力では、村上作品は高度過ぎて理解が困難であることを実感している。

 

 

今回読んだ小説も655ページの長編で行間もギッシリ詰まっており、読んでも読んでもページが先に進まない。

 

 

物語の内容は、第1部では、17歳の少年が16歳の少女に恋をして、突然行方不明になった少女を探し求めている内、村上作品の特徴である異次元の世界である「高い壁に囲まれた街、影のない世界(影は別に隔離されている)、時間の概念のない街」に入り込み、

 

 

そこで、探し求めている少女と出会うが、その少女は従前の少女とは別の壁の内側にいる影のない少女である。

 

 

そこから「現実の世界」と「非現実の世界」が入り乱れ交錯する。

 

 

第2部・3部ではあるいきさつから壁の外側に出てくることになった少年は、その後「現実の世界」にあって、中年と呼ばれる年齢となった。

 


そこに不幸な事故と自死で妻子をなくし、幽霊となった男性と出会い、導かれるように地方の図書館長として働く。

 

 

その図書館では、特殊な才能を持つ不登校の少年との出会いから、物語は再び「壁の内側」へと佳境に向かっていく。

 

 

 

村上作品は、私自身の数少ない読書歴であるが、行間の文章表現は美しいが、何せ私の乏しい読解力では「非現実の世界」となると、なかなかその世界についていけない。

 

 

元来、私は昔からあまり融通の利くタイプではない。

 

 

以前話題になった「鬼滅の刃」も現代のブームに乗り遅れないよう、話のネタにと、漫画本1巻~23巻まで読んだ時もそうだったが、

 

 

鬼とか幽霊とかお化け、変身物、タイムマシンに乗って過去の世界にタイムスリップするなど、現実離れした物語には「そんなことがあるか?」と疑問符がついて、どこか冷めた感覚で一歩引いた自分がいるのである。

 

 

夢がないと言えばそうかもしれない。ただ、現実の世界の物語でないと、嘘くささを感じるのである。

 

 

今回の作品も村上ワールド全開で沢山の村上ファンのハートを射止めたと思われるが、先に述べたように、どうしても「非現実の世界」には一歩引いた自分がおり、夢中になりきれないのである。

 

 

ただし、村上作品は世界中の多くの人たちから絶大な支持を得ており、そこには私の知識や」想像力の及ばない世界観があるのは事実であろう。

 

 

そういった意味では強く印象に残った本でもある。

 

 

そして隠れファンの1人と自認する私はやはり次の作品が出れば読みたいし、この訳の分からないジーさんの胸を打ち震わせるような作品を期待しているのである。