Uber等のライドシェアに関する問題についてのまとめ | 批判的頭脳

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Uberをはじめとした”ライドシェア”という業態がある。

詳しいところは参考リンクをご覧いただきたいが、要するに、インターネット上で「乗りたい人」と「乗せたい人」をマッチングして、自家用車への相乗りという形で白タク行為を行い、報酬を得る業種である。
退蔵されている自家用車という資源を利用可能にしたり、ライドシェアの浸透を通じて、全体の自家用車保有を低下させ、事実上の資源共有を深める(シェアリングエコノミー)といった謳い文句で持て囃されている。
日本では現状、上述した通り「白タク」行為にあたるため、実際にこのライドシェアによる報酬は得られないことになっている。
そしていつもながら、「日本のタクシー規制は時代遅れで、一刻も早くライドシェアを法的に認可するべきだ」という主張が後を絶たない。

そこで、ライドシェアが抱える問題について、まとめてみたのでご覧いただこう。


①ライドシェアには、代替移動手段(公共交通機関や自転車、徒歩など)からのシフトを促し、渋滞を生み出す不経済がある。

参考リンク
ライドシェアは渋滞を軽減するどころか悪化させる アメリカで話題の予測
米NY市が新条例、配車サービスの台数に上限

先述した通り、ライドシェアの謳い文句は自動車の”共有”(シェアリングエコノミー)であり、これによって渋滞などの問題は緩和されると主張されることもある。
しかし実際には、ライドシェアは渋滞を激化させ、現にニューヨークでは台数規制が始まった。
これは何故だろうか?

ライドシェアと競合しているのは、既に小見出しにも書いた通り、徒歩、自転車といった自動車以外の代替手段や、バスや電車といった公共交通機関である。
徒歩や自転車、電車は車道を利用しないし、バスは人々を”集約”して運行するため、渋滞緩和的な効果を持つ。
その一方で、ライドシェアは、利用人数あたりの車道利用が大きくなるため、渋滞悪化的効果を持つことになる。
タクシーと比較しても、低価格により利用は増加しており、また自家用車が利用可能なため、自動車資源の投入も増加する。結果として、深刻な渋滞悪化を引き起こしてしまったのである。

こうした事態に対し、「ライドシェアへの規制ではなく、渋滞時間帯の交通量徴収といった、自動車一般への渋滞対策を行うべきだ」というのがよくある反論である。
しかしながら、ライドシェアによって発生したコストの少なくない部分を他に転嫁することはそもそも不公平な上、転嫁分だけライドシェアは厚生上過剰供給になってしまう。ライドシェア過剰利用による不経済は、ライドシェアの値上げやライドシェアへの規制を通じて解消するのが、公平さの面でも厚生面でも妥当なのである。
また、運送業といった、車道以外の代替手段に乏しい業種を圧排してしまうのも不経済である。ライドシェア以外にも経済的負担を要求しようとする主張は、あらゆる面で道理を外れていると言えよう。






②ライドシェアにもバックグラウンド・チェックや評価機能はあるものの、それでも運転者による犯罪発生等のトラブルは後を絶たない。

参考リンク
世界各国における自家用車ライドシェアをめぐる犯罪行為等に関する質問主意書 

ライドシェア業者は、バックグラウンド・チェックや評価機能により「不良」運転者は排除されると喧伝しているが、上記リンクでも分かる通り、実際にはその効果には疑問符が付いている。



③ライドシェアのドライバーは請負扱いとなっており、各種労働者保護を受けられず、整備費等のコストもドライバーに押し付けられる構造になっている。

参考リンク
問題山積のライドシェア 断固反対を訴えるタクシー業界 

ライドシェア業者は、あくまでマッチングサービスを提供しているだけという建前なので、ドライバーに対する労働者保護は一切存在しない。
整備費はもちろん、事故に関する保険もドライバー個人単位で加入する。労災などあるわけもない。
ライドシェア業者の”目覚ましい業績”は、本来負うべきコストを回避することによる”フリーライド”によって発生しているわけだ。



④ライドシェアの安さは、タクシー業界が負担しているような安全コストの回避に起因しており、決して望ましいものではない。

参考リンク
問題山積のライドシェア 断固反対を訴えるタクシー業界

前項とやや重複する部分もあるのだが、ライドシェア業者は、ライドシェア業に関する正当なコスト負担を回避している。
事実上の請負仲介という立場を利用して、労働者(ドライバー)への保護制度を回避し、保険の整備どころか、保険加入の如何さえドライバーに押し付けている。
ライドシェアが(タクシーに比して)安いのは、単に負うべきコストを負っていないからだ。
この問題を解決するには、ライドシェアにおけるドライバーに正当な雇用契約を設け、ライドシェアの供給会社単位の保険や整備費用負担等を徹底する必要があるのだが、そうなれば、ほとんど既存のタクシーとコスト上変わらなくなる可能性が高いだろう。



⑤供給量のコントロールがないため、渋滞以外にもタクシードライバーの生活困窮を惹き起こしており、中長期的なタクシー(等)供給の安定化の観点からも問題となる。

参考リンク
問題山積のライドシェア 断固反対を訴えるタクシー業界
NYだけで8万人。増えすぎUber運転手の生活が困窮—— NY市規制に

瞬間的に料金が安くなっても、ドライバーの生活が困窮し、供給維持が困難になっては意味がない。
生活費捻出のために、”自発的”超過労働になってしまっては、安全にも支障がある。
また、収入が過剰に低いと、中長期的に安定した人材流入にも滞りが生じるだろう。
タクシーは、単なる営利事業であるだけでなく、補完的なインフラ、公共財の一種としての役割も期待されている。その意味で、過当な競争は望ましいものではない。
公共経済学的観点から言って、道路資源の効率的な利用の面のみならず、タクシー業一般の中長期的安定の面でも、ライドシェアの蔓延は望ましくない効果を生むだろう。



⑥ライドシェアにおける利用者評価機能への過度な依存は、利用者の『増長』を生み、ドライバーの著しい地位低下の原因となっている。

参考リンク
ライドシェア離れが進行中。滴滴出行はこの危機を乗り越えられるか

ライドシェアでは、ドライバーの評価が、ライドシェア業者ではなく、利用者に完全に委ねられている。
いわば人為的に「お客様は神様」状態を強化しているわけで、この構造により利用者がドライバーに対して無理な要求をするケースが後を絶たないという。利用者のレビューが真に正当なものかをチェックする仕組みは存在しないからだ。
通常の企業なら、ドライバーへの”評価”は、消費者によるクレーム等が反映しているとしても、あくまで企業単位で下される。ライドシェアには、そうした企業によるクッションが存在しないわけだ。

また、利用者評価機能への依存がライダーへの損害を産み出すという上記問題は、いわゆる労働者保護が、雇用主からの保護だけでなく、一部消費者からの保護としても機能している面を伺わせる。
バーゲニング・ポジションの差の問題は、労働者と消費者の間にもあるというわけだ。




問題のまとめは以上となる。
こうした経済学的(特に公共経済学的)な問題分析は、これから次々と生まれるであろう新サービスにも有効になり得るので、是非参考にしていただけると幸いである。