日本チアリーディング協会の中村節夫会長をゲストに迎えた、今回の『中山泰秀のやすトラダムス』(Kiss FM KOBEで毎週日曜24:00-25:00放送)。国際スポーツと政治の関わりや各国のスポーツ戦略、日本のスポーツの今後あるべき姿について語った。






“スポーツ政治”の国際競争力で日本の国力強化をスポーツ界でも日本の存在感を示せる人材育成が急務







スポーツの世界にもある“ポリティクス”



中山 まもなくロンドンオリンピックが開催されます。そこで今回は、国内外で広くスポーツ文化の振興と発展に取り組んでおられる公益社団法人日本チアリーディング協会会長、IFC(国際チアリーディング連盟)会長の中村節夫さんにお話を伺いたいと思います。
 軍事力や経済力などの「ハードパワー」に対し、「ソフトパワー」という概念があります。今後、日本もソフト戦略が重要になると思いますが、いわゆる“ソフトコンテンツ”の中にはスポーツもある。国の戦略としてスポーツを考えていくにあたり、まずはスポーツと政治の関わりについて教えていただけますか。


中村 日本では、政治と聞くと若者に限らずある種の拒否反応のようなものがあります。例えば世論調査で「支持政党なし」が60%を超えるなど、日本人が政治に対して持つイメージが、意見調整やルール作りなど本来の意味での政治とは少し違うものになっている気がします。
 しかし、国際スポーツの世界では政治と密接に関わることになります。スポーツの現場にも各国のポリティクスがある。日本の若者も含め多くの人に「スポーツと政治は密接な関係がある」と言いたいですね。
 例えば、ビジネスの世界はお金が儲かるかどうかの、言ってみれば単純な話です。しかしスポーツの場合、「もっと素晴らしいスポーツにしよう」とか「若者たちに夢を与えるものにしよう」ということを追求しようとしたら、様々な意見が出るわけです。
 健康志向のものがあれば、競技志向のものもある。さまざまな国の意見がある中で物事を進めていくには、スポーツの世界でも政治は必要不可欠だと感じています。
世界の“スポーツポリティクス”で勝つための人材育成を


中山 柔道の国際大会に青い胴着が導入されるなど、日本の伝統文化から生まれた柔道という日本のソフトパワーのひとつが、海外に取られてしまったようにも見えるのですが、いかがでしょうか。


中村 スポーツの世界も民主主義の原理に基づく投票で決まる部分が大きいので、多数派を形成することがモノを言う。ヨーロッパには多数の国があり、国際オリンピック委員会(IOC)の本部があります。そうすると、IOC本部のあるローザンヌに近い、フランスなどに拠点を置いた方が有利であると多くの団体が考えるはずです。
 一方、日本は非常に遠い国だと思われている。オリンピックスポーツの本部は既にヨーロッパにあるわけですから、我々は今後どうすべきなのかを考える必要がある。
 昨年、スポーツ振興を国家戦略と位置づけたスポーツ基本法が成立、施行されました。こうした制度を通じて国際競技連盟(IF)にさまざまな援助を呼びかけることができれば、様相は変わってくるのではないでしょうか。


中村 日本にとって大事なポイントは、英語はパーフェクトでなくてもいいから海外のスポーツ団体に話ができる人材を育成して、各国際連盟にどんどん送り出すこと。そして世界の中で存在感を強めながら、日本人らしさをしっかりと持って活躍することです。
 世界の人たちは日本人に対して「武士道」のようなイメージを持っており、尊敬の目を向けてくれています。それは、日本人ならではの潔さや清さといった、我々が誇るべき部分でしょう。
 日本の政府も、世界の中で一生懸命に闘っていると思います。しかし、世界のスポーツにおける政治で勝つためには、各スポーツの国際連盟に対して影響力を持つ人材や国際人脈を持つ人材を育成することが必要不可欠です。
 これは10年後、15年後を見据えて取り組まなければならない喫緊の課題だと私は思っています。



「普通の国でいい」では地盤沈下する一方。スポーツでも国力アップを



中山 ドイツやスペインなど、ヨーロッパにおけるスポーツ戦略を中村さんはどうご覧になっていますか。


中村 ヨーロッパには領土や人の権利を奪う戦争で植民地をつくった過去があり、かつ市民の中でも政治というものが定着しています。こうした歴史を背景に、スポーツでも各国が戦略を持ち、パワーを維持している。
 そうした政治の中では、日本も世界に合わせていく部分が必要です。我々の国は清廉なんですと言っているだけでは通じないと思います。


中山 政治とスポーツが密接に関わっている以上、やはりそこにはカネが絡んでくると思います。例えば野球では今、ダルビッシュ有投手やイチロー選手など、日本人野球選手が米国で活躍していますが、その裏では放映権として莫大なカネが動くわけですよね。


中村 そうですね。米国のメディアは総括して権利を握っており、ヨーロッパの人からすると多くの利益が米国に入っているような印象を持っています。
 「なぜ私たちの国にもスポーツがあるのに、米国にだけお金が行ってしまうのだ」と多くの人が感じているでしょうが、それは米国の戦略の1つだと思います。
 一方、スポーツ競技の会長にはドイツやスペイン、あるいはオランダやイタリアなど、ヨーロッパの人が多いんです。このように、どの国においても根本的な戦略は考えられている。
 我々は、彼らと喧嘩するのではなく、仲良くやりながらも日本の立場や日本のスポーツコンテンツを明示し、理解してもらうことが大切ではないでしょうか。


中山 ヨーロッパの経済は相当なダメージを受け、日本も景気がよくない状況ですが、国力とスポーツ力というのは比例するのでしょうか。


中村 私はちょうどスペインに行って現地の様子を見てきましたが、日本よりも断然明るいんですよ。多くの人たちが街に出ていて、バルセロナの街にはものすごい活気がありました。あれほど経済が駄目だと言われているのにです。
 日本人は「駄目だ」と言われると沈んでしまいがちですが、我が国の対外純資産残高は世界一の資産国です。だから皆、もっと元気を出していいんです。
 一方で、「私たちは普通の国でいい」なんて言っていたら、世界から相手にされなくなってしまう。経済や政治、スポーツやビジネスを含めた多くの分野で、もっと国力を確固たるものにしていく必要がある。それが日本という国を維持する原動力になるということを理解してもらいたいですね。





プロ化すべき競技とアマチュアで楽しむべき競技がある




中山 今年度から中学校の体育の必修科目に武道とダンスが加わりますが、これについてどうお考えですか。


中村 文部科学省の中でも、何を科目に入れるかについていろいろな議論があったと思いますが、ダンスはケガをする確率が非常に高い。
 ダンスにはヒップホップやブレイクダンスなど多くのカテゴリーがありますが、規則を守らないと首や足を痛める原因になります。そのあたりについて、もう少し議論をした上で決めるべきだったと思っています。
 武道に関しては、日本のお家芸から生まれたスポーツですから、今の指導者が新しい指導者にしっかり教えていくことが重要です。指導者の育成では、特に安全面を徹底して教えてほしいと思います。


中山 話は少し変わりますが、魅力あるスポーツはビジネスとして成り立ちます。その好例がヨーロッパのサッカーですが、中村さんはプロスポーツの世界をどう見ていますか。


中村 スポーツにはプロ化できる競技とプロ化に向かない競技があります。日本では、プロ化した全てのスポーツが成功しているわけではないのが現状です。
 私は、プロ化がすべて良いとは思いません。例えば相撲には国際相撲連盟があり、その中に「プロ化しろ」という声を挙げる人たちがいました。しかしプロ化には向かないという意見が多く、結果的には途中でストップした経緯がある。
 このように、スポーツにはプロ化すべきものとアマチュアで楽しむべきものがあるのではないでしょうか。


中山 最後に、日本のスポーツが今後どうあるべきかについて提言をお願いします。


中村 世界のスポーツ界の中で日本人が活躍できる環境を国がつくらなければなりません。経済、スポーツ、文化などを含めたバランスを持って国力を保つことが大事ではないでしょうか。











『中山泰秀のやすトラダムス』 7月8日 24:00-25:00放送
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