多部先生が怪我の処置をしてくれている間、オレは多部先生が解いてくれた雅紀のネクタイをしっかり握りしめていた。
コレが雅紀を守るはずだったのに。
コレがあれば雅紀を心配させないはずだったのに。
今はこうしてオレの手の中にある。
雅紀がネクタイでしっかりきつく結んでくれたから思ったより出血は少なくて済んだ。
「はい。おしまい。化膿するかもしれないから、薬局に寄って大きな湿潤の絆創膏買って行きなさいね」
「ありがとうございました」
「まだ終わってないでしょ?ちゃんと2人で話もしなさいね?さぁ、井ノ原先生、私たちはちょっと席を外しましょ?ね?」
「そーですね。櫻井、相葉を泣かすなよ」
「すんません。お手数おかけします…」
多部先生に急かされたイノッチ先生がオレの前に雅紀を押し出してから保健室を出ていった。
「雅紀。ごめん」
「…」
「怪我して心配かけたことも、それから…」
「…」
雅紀の目の前に立ち、ワイシャツの上からネクタイを締め直しながら涙目になっている雅紀の顔を覗き込んだ。
「黙っててごめん。大学でさ…」
「聞きたくない!」
「雅紀。聞いて?」
「嫌だ!!!翔ちゃんは俺だけの翔ちゃんだもん!!別れるなんて嫌だかんな!オンナノヒトの匂いをくっつけて来てさ!そんな匂いをくっつけたままで俺を抱きしめて騙して楽しいかよ!!」
…ああ。やっぱりだ。
勘違いして早とちりをした雅紀はまた飛躍しすぎてとんでもないところまで考えが行きついてしまったんだ。
つか、そうさせたのはオレだから雅紀には何の非も無い。
ネクタイを締めようとしているオレの腕の中で暴れ出した雅紀をしっかり抱きしめた。
抱きしめてもなお、腕の中で雅紀は抵抗してオレの胸をこれでもかというくらい叩いてくる。
叩きながら抜け出そうと必死になっている。
でも。
離してたまるか。
絶対に。
「雅紀!!!聞けって!!」
「嫌だああ!!!」
「雅紀っっっ!!!!」
「嫌ぁ!!!!」
「まさ…っ…き!」
「んッ…」
暴れて抵抗して叫び続ける雅紀の口をオレの唇で塞いだ。