オレたちの新生活がスタートして一週間が経過した。
さすがにお袋や姉ちゃんに食事の調達を毎日してもらうわけにはいかないから…と雅紀は脚の長い椅子を買ってくれと言ってきた。
脚の長い椅子に座ればガス台を使うのも洗い物をするのもそんなに不自由しない。
それに調理台の前に座ることも出来るから料理をするのにもリハビリの一環にもなるらしい。まさに一石二鳥だ。
で、料理が趣味のひとつだと言っていただけあって、雅紀が作る飯はめちゃくちゃ美味いんだ。
ノーフードフリードリンクな生活をしていたオレも少しは手伝おうかと台所に顔を出すと「仕事が増えるから来るな」と雅紀が本気モードで断ってきた。
せめて洗い物でもと思ったけど、ソッコーでコップを一つ割ってしまったので台所は立ち入り禁止になってしまった。
ちぇ。
少しは役に立ちたいのに。2人での生活だから並んでなにかしたいのに。
椅子に座って洗い物をしている雅紀の後ろから抱きついた。
「どした?」
「んーん…」
「なに?」
「んーん」
「甘えたいの?」
「ん」
「台所が出禁だから寂しいの?」
「ん」
背中におでこをスリスリして甘えた。
甘えてどうすんだって思うけどさ。
仕事で疲れた時にはやっぱり雅紀の温もりがオレにとっては一番の特効薬なんだよ。
くふくふ笑いながら雅紀が振り向いてくれたから、素早くその唇に後ろから吸い付いた。
吸い付きながら少しずつ移動していったオレは最終的に雅紀の首に手を回してしがみつくようにキスをしていた。
毎日抱かれても飽きない。
何度でも抱かれたい。
いつかこの足でオレを抱き上げて。
細くなった雅紀の足を撫でると、ぶるっと体を震わせた雅紀がオレの頭と腰をロックした。
抱いて。
オレが雅紀の足を撫でることがそのサインになっていた。
「今日はここで…して?」
「ん。いいよ?」
椅子に座ったままの雅紀から少し離れて立ったオレは、その目を見つめながらゆっくり服を脱いで見せた。
新居に来てから、寝室で、風呂場で、リビングで、そして台所で。
ありとあらゆる場所で雅紀に抱いてもらっていた。
この家にオレが抱かれていない場所なんてない。
ないんだ。