俺が差し出したチョコを潤さんはクスって笑って受け取ってくれた。
親友の息子から渡されたチョコは突き返すワケにはいかねぇもんな。
しばらくそのチョコの箱を見つめていた潤さんはちょっと待ってろって言って一旦車を降りた。
少しして戻ってきた潤さんはブラックの缶コーヒーとミルク入りの缶コーヒーを手に戻って来た。そしてほいって言いながらミルク入りの缶コーヒーを開けてくれた潤さんが俺の手に持たせてくれた。
潤さんはブラックの缶コーヒーを口に含んだ。
あったけぇ。
ホットの缶コーヒーは色んな意味であったけぇ。
「寒かったからちょうどいいだろ?それにチョコをいただくならコーヒーも無いとな?」
「…食ってくれんの?」
「当たり前じゃん」
「…うん!」
そして俺の髪をくしゃくしゃってしてから、潤さんはチョコのラッピングの紙をそっと開いた。
「マジすげぇ。売ってるやつみたいにめっちゃ綺麗じゃん」
「ふへへ。そうだろ?頑張っちったぜ」
「食うのがもったいないけど…いただきます」
「召し上がれ」
潤さんはふふって笑ってからトリュフチョコを食べてくれた。
「ん。めちゃうま♡」
「マジ?良かったぁ」
「は?なにお前。味見してねぇの?」
「したし。雅紀に教わった時にしたし。翔ちゃんにもあげたし」
「そっか。翔もコレを食ったんだな」
「...ん...」
知ってるよ。潤さんが翔ちゃんを見てるのは。
そんなの中2男子のちょっとお子様な俺でも分かるよ。だって俺は物心ついた時から潤さんだけ見てんだから。
そんな潤さんの横顔を見てたらなんか胸の奥がぎゅううってなる。
失恋じゃねぇのか失恋なのか分かんねぇけど、胸が苦しくなる。
.....ブルブル.....
ダッフルコートのポケットがLINEの着信を告げた。
それは翔ちゃんからのメッセージだった。
【快翔、遅くなる前に帰ってこい。オグさんからすげぇ綺麗な写真が送られてきたから転送するな。潤と見られるといいな】
「うわ…めっちゃ綺麗...なぁ、潤さん、見てコレ...」
「ん?どれ?...すげぇなぁ...こんな綺麗な雪の結晶なんて見た事ねぇ...」
「俺、雪の結晶って分かんなかったよ。一瞬、樹氷かと思った」
「ああ。ホントだよな。樹氷みてぇだわ」
俺が差し出したスマホを潤さんが覗き込んでくる。
フワリと香る潤さんの香水がまた胸を締め付ける。
幼い頃の記憶の中に残る潤さんの香りと同じ匂い。
潤さんと一緒に画面を覗き込んでいるこの時間を雪の結晶みたいに固めてしまいたい。
心からそう思ったんだ。
「潤さん...」
「ん?」
「すき」
「ん?聞こえねぇ...」
「なんでもない。コーヒーありがとう。ご馳走様」
「こちらこそ、チョコありがとうな。ご馳走様。このまま家まで送るよ」
「ありがと」
「どういたしまして」
静かに潤さんがアクセルを踏んだ。
窓の外の風景が少し涙で滲んだ。
潤さんにバレないようにすんって鼻をすすったけど...バレてるかな...。
潤さん。
めっちゃ好きだよ。
チョコを受け取ってくれてありがと。
チョコを食べてくれてありがと。
いつか翔ちゃんじゃなくて俺を見てくれる日がくるといいな。
潤さん…。俺はいつか潤さんの中の翔ちゃんに勝てる日がくんのかな。
すんっ。
鼻をすすったら潤さんの手が運転席から伸びてきて俺の頭をぽんぽんしてくれた。
俺が潤さんにちゃんと告るのはもう少し先。
そして想いが届くのはもっともっと先の話。
この時の俺はまだそんなことは気づいていなかったんだ。
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この雪の結晶の写真はひろちゃんが見せてくれたもの。
北の大地の冬の厳しさと美しさに胸を打たれたのでお借りしました。
そして幼い翔ちゃんはお話を読んだひろちゃんが贈ってくれたものです。
スクショ等は厳禁なのでこの場所だけで見てくださいね。
いつかオグさんがいる北海道に快翔と潤さんも行けるといいね?
なかなか終わりそうで終わらない快翔のバレンタインのお話にお付き合いいただき、ありがとうございました。