「以上、卒業生代表、櫻井翔」
オレの言葉が終わると体育館全体に拍手が響き渡った。
終わった。
オレの高校生が全て終わった。
紙を丁寧にたたんで校長先生に渡してから壇上で振り向いた。
視界に入るのは仲間たちや保護者席にいるお袋。
教職員席にいるイノッチ先生や東山先生。
そして在校生席で大号泣してる雅紀。
もう。
お前は朝から泣きっぱなしだな。
今すぐ駆け寄って抱きしめたいのにそれが出来ねぇなんてな。こんなに辛いんだな。
隣にいる風間が雅紀にティッシュを渡してるのが見えた。その後ろでは松本も雅紀の背中をさすってる。
あの2人がいれば大丈夫だ。
すうーーーー。
壇上で息を大きく吸い込んでから、オレは体育館に響くような大声をあげた。
「みんな!!!ありがとう!!!!
そしてみなさま、ありがとうございました!!」
台本にはないオレの言葉。
だけど卒業生がそろって立ち上がったかと思うと一斉に保護者席の方へ体を向けて声を出したんだ。
「「「「ありがとうございました!!!!」」」」
地鳴りのような拍手が沸き起こった。
壇上で胸が震えるほど感動したオレはただその場で頭を下げることしか出来なかった。
ポロポロと涙をこぼしながら。
やっぱり最高の仲間に恵まれたオレは幸せだ。
「卒業生、退場」
司会の先生の言葉のあとに、オレたちは立ち上がり、体育館を出る。
ここを出たらもう戻れない。
楽しかったよ、オレの高校生活は。
最高だったよ、オレの高校生活は。
歩き出しながら在校生席を見ると、顔中が水浸しの雅紀と目が合った。
「ほら、おいで」
「しょ、ちゃぁ…」
通路から手を伸ばしたオレは雅紀の手をしっかり捕まえ、そのまま肩を抱き寄せて体育館を歩いた。
もちろん背後からは歓声と拍手に包まれてたけどな。こういうのもいいだろ?なんか一昔前の映画みたいでさ。
そして雅紀の肩を捕まえたまま体育館の外に出ると、イノッチ先生と目が合った。
そしてこれ以上にないくらいタレ目の角度を急勾配にしたイノッチ先生は二カッとオレたちに笑って言ったんだ。
「櫻井、ハメを外しすぎないようにな!」
「ありがと、イノッチ先生!!」
歓声を上げるみんなに向けて後ろ手に手を振りながらオレはそのまま駆け出した。
「「待って!櫻井くん!!」」
「「第二ボタンは無理でも何か…!!」」
「「櫻井先輩!!!」」
体育館から追いかけてくる女子たちの脚力はオレたちにかなうはずなんてなかった。
みるみるうちに差が開いていく距離に女子たちは最後は諦めていた。
「雅紀!もうちょい頑張って走れ!!」
「うん!!!」
2人でしっかり指を絡めながらある場所へ向けて走り続けた。