『ハッチング ー孵化ー』抑圧された少女の魔術のような孵化現象
公開当時、ちょっと気になったけど観に行かなかった『ハッチングー孵化ー』を録画鑑賞。
分類のところにボディホラーとなっているのを見て、ふと個人的にお気に入りの『TITANE』を思い出したのだけど、『ブラックスワン』にもちょっと通じるところがあるように感じた。
そのことについて、とりとめなく書いてみたい。
両親と娘と息子の4人家族。異常に虚栄心が強い母親は、理想的な暮らしアピールのための発信に夢中だ。母親の自慢の娘ティンヤは、体操の大会で勝たなければいけないというプレッシャーに押し潰されそうになっている。
そんなスタイリッシュな家の中に、ある日、カラスが飛び込んで来て騒動になり、母親が手にかけてしまう。
娘は森の中で再び傷ついたカラスに出会い、「楽にさせてあげる」と言って殺すのだが、同時に卵を見つけて持ち帰る。
こうした一連の行為が、儀式のように娘と鳥の間に命の結びつきがもたらされたのかもしれない。
抑圧された日々の中で卵を温めていたら、どんどん大きく育ち、ある日ドヒャ〜っとした感じの雛鳥(という割には大きい)が孵るのだが、温める過程は魔術にも似ていて、娘の念が乗り移った…という解釈が可能だ。
その鳥があら不思議、だんだん娘に似てきて、周囲を混乱させる。
その混乱もちょっとズレてしまうというか、なかなか皆気づかない。ま、似ているしね
他にも細かいことを挙げると色々気持ち悪いディテールがあるのだが、たぶんこれらの怪奇現象は、娘の異様なメンタルが可視化した結果のようにも思える。
ダーレン・アロノフスキーの『ブラックスワン』でも、主人公のプリマドンナがどんどん追い詰められていき、大袈裟なくらい虚実が入り乱れていく。
だが、本作はホラー映画として開き直っているのか(実は『ブラックスワン』もそうだったのかも)、娘の心理的な可能性よりも、妙にアナログ感溢れるクリーチャーの実存感が圧倒的だ。
でも、2人(娘と鳥)は一心同体なのだと思うと、こんな事態にまで至るなんて、よほどの抑圧だったのだな。北欧の美しげな雰囲気ではあるが、『キャリー』が切れた時のような凄まじさにも匹敵する現象。
奇妙な感触の映画だけど、嫌いではないよ(母親の顔は苦手^^;)。
Pahanhautoja
監督:ハンナ・べルイホルム
出演:シーリ・ソラリンナ、ソフィア・ヘイッキラ、ヤニ・ボラネン、レイノ・ノルディン…
2021年/フィンランド/91分
今日は疲れたので、この辺で。
Bon Voyage★