『ギターはもう聞こえない』@フィリップ・ガレル監督特集 | dramatique

『ギターはもう聞こえない』@フィリップ・ガレル監督特集

フィリップ・ガレル監督特集にて『ギターはもう聞こえない』を鑑賞@恵比寿写真美術館。

前妻ニコの急逝直後に製作され、ニコに捧げられた極めて私的なラブストーリーである本作は、ガレルとニコを投影した登場人物ジェラールとマリアンヌのカップルを俳優が演じることで新たな命が吹き込まれている。

ただ、ニコということで、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのイメージを持って観てしまうと、そういう感じはしなくて、ただ2人がダラダラと無為に過ごしていて、「どのくらい愛してる?」「死ぬまで愛し続ける」とか…そんな話ばかり

この人たち、仕事は何をしてるんだろう?…と思うほど(笑)。

それは、ガレルとニコの婚姻期間(1972〜79)が、すでに伝説となっていたニコの低迷期にあたる時期だったからなのかもしれない。そしてガレルも自分探しの途上だった…と推測。

タイトルは『ギターはもう聞こえない』だけど、ギターも出て来ないし(笑←笑える感じの映画でもないのに笑い過ぎ;)。


 
(パンフレットより)
海辺の町で共同生活を送るジェラール(ブノワ・レジャン)とマリアンヌ(ヨハンナ・テア・ステーゲ)、マルタン(ヤン・コレット)とローラ(ミレーユ・ペリエ)の2組のカップル。彼らはやがて破局を迎えるが、マリアンヌはジェラールの元へ戻ってくる。だが、パリで暮らす2人は次第にドラッグに溺れ、生活は困窮を極めていく。最終的に別れを選んだジェラールは、アリーヌ(ブリジット・シィ)と出会い息子を授かる。そんなジェラールの元に、ある日、マリアンヌの訃報が届く…


ふわふわとつかみどろのない魅力に溢れるマリアンヌは、ジェラールとくっついたり離れたりを繰り返している。

私のコンディションのせいもあったのだろうけど、途中、久しぶりに眠くて仕方なくて、ウトウトする自分と闘いつつ、時々ハッとなりながら観ていた。この感じって、いわゆる少し前のザ・フランス映画の退屈さだなあと思って、何だか懐かしかった。

でも、実は、決して退屈ではなく、妙に歪な手触りのある、不思議な映画なのだ。

長々と意味もなく続いていたかと思ったら突然ブツッと途切れたり、脈絡なく飛躍したり…ひょっとしたら天才的なセンスで繋がっているのかもしれない。

上映後の月永理絵さんと五所純子さんのアフタートーク「ガレル映画の美しき貧しさをめぐって」でも話題に出たのだけれど、とても顔のアップが多い映画で、マリアンヌのソバカスがやたら大写しになったり、マルタンを演じるヤン・コレットの義眼がやはりしょっちゅう大写しになる度につい凝視してしまって、それまでウトウトしていた意識が覚醒するのだ。

冒頭、イタリアの島で2カップルが暮らしているのだけれど、それとてパッと見では何だか関係性がよくわからないまま進行する。

独特の色彩感の空気の中で、カフェオレボウルから無造作に飲む仕草とか、剥き出しの壁とか…ものすごくムーディー(撮影はカロリーヌ・シャンプティエ)。

マルク・ショロデンコによる台詞も印象的。

マルタンが「前は欲しいものがあれば(愛とか幸せとかお金とか…?←うろ覚え)ただ両手を広げていれば手に入ると思っていたけど違うんだ。しっかり抱え込まないといけないんだ。そうじゃないと生活に奪い去られてしまう」と言った時に、ジェラールが「子供が生まれたんだ。子供が出来ると生活が変わるんだよ、君は…」と言いかけるとバッサリ話を遮られるシーンとか、マリアンヌがジェラールの新しい妻と対面して話すシーンとか…終盤グイグイ斬り込んでくる。

この新しい妻(息子ルイ・ガレルの母親だよね)がマリアンヌとは全然違って、くっきりした現実的な人で、ガレルをガンガンやり込める嫁さんタイプだ。

しかも、マリアンヌ役のヨハンナ・テア・ステーゲは、奇しくも先日観た『ザ・バニシング -消失-』で失踪するヒロインを演じていた女優だったのだ(!)


↑トークショーのお二人。
向かって左が五所純子さん、右が月永理絵さん。

この2人は、たぶん全然違うタイプで、そういう意味でも今回の作品と合っているように思えるのだが、それがそのまま本作の解釈の幅が広く自由であることを示している気がした。




J'entends plus la guitare

監督:フィリップ・ガレル
出演:ブノワ・レジャン、ヨハンナ・テア・ステーゲ、ミレーユ・ペリエ、ヤン・コレット、ブリジット・シィ
1991年/フランス/98分/カラー


新旧取り混ぜ、上映は5/17(金)まで続きます。
トークや特別イベントも予定されてるみたいです。

【上映作品】
『救いの接吻』1989〈日本劇場初公開〉
『ギターはもう聞こえない』1991
『つかのまの愛人』2017
『孤高』1974〈特別上映〉
『自由、夜』1983〈特別上映〉



かつてバンドで歌ってた頃、プロデューサーから「ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのニコみたいに」とか言われてたんだけど、今思うと笑える話だよね。

何だかまだクラクラしてて、まとまりのない文章なので、また修正しに戻って来るかもしれません。


Bon Voyage★