①バーティカルSAASの横展開 タレントマネジメントと労務の一体化
本シリーズの一冊目の冒頭で一つの領域を掘り下げるバーティカルSAASと広い領域を手掛けるホライズンタルSAASについて取り上げた。そして、これは順番の問題であり、いずれはバーティカルSAASも領域を広げることで、さらなるレッドオーシャン化が進む予想にふれたが、この流れが加速してきている。
顕著なのがタレントマネジメントベンダーの労務領域への進出である。タレントパレット、HRブレイン、カオナビという業界の主力プレイヤーがこぞって年末調整を含む労務機能をリリース、給与明細まで領域を拡大させている。スマートHRは、逆に労務領域からタレントマネジメント領域に進出しており、双方がお互いの領域に進出する形となっている。
領域を広げる場合、既に保持しているシステムの領域と近しいところに広げることは開発のしやすさから考えても、顧客層を活かせることを考えても、顧客の業務フロー上のつながりがあるという点から考えても理にかなっている。領域が近しいというのは、担当が同じであるとか、業務が繋がっているとか、同じデータが使われているという観点が考えられるが、その点において、労務とタレントマネジメントというのは、領域が近いというか兄弟領域というふうに言っても良いように私は考えている。よって、前述した、タレントマネジメントベンダーが労務に進出することと、労務ベンダーがタレントマネジメント領域に進出することは筋が良い打ち手であると言える。
ところが、タレントマネジメントベンダーの3社が3社とも同じ打ち手を打っているため、どこかが突き抜けるわけではなく、他社もやるからうちもやる、そういう動きとも見れなくもない。王道の打ち手であるために、やることが同じになってしまうというのは仕方のないことである。
では、タレントマネジメントから労務に打ってでるのと、労務からタレントマネジメントに打ってでる場合のどちらが有利であるかというと、私は、スマートHRに限っていう場合は、特に労務からタレントマネジメント領域に打って出る方が有利であるとみる。
そもそもの業務の流れ、データの流れでは入り口に労務があり、その領域をスマートHRが圧倒的なシェアでおさえている。もともとスマートHRを使っているユーザーが、スマートHRのデータをタレントマネジメントシステムに入れる流れになるが、それであれば、そのままタレントマネジメントもスマートHRにしようという話にしやすい。また、労務はシステム化していても、タレントマネジメントまで手を出していなかったような企業が、労務システムでスマートHRを使っている場合にも、同じ画面見合いで使いやすいスマートHRをタレントマネジメントでも使うほうが、業務ストレスが少ないはずである。
そして労務領域といっても、多くの機能がある中で、それぞれの機能を使いやすくシステム上で使えるようにUIUXにこだわってきたスマートHRは、同じく多くの機能があるタレントマネジメントの領域でも使いやすいUIUXを徹底的に磨きこむのではないかと私は考えるのである。
これは開発のための資金調達ができたから十分な開発期間とコストをかけられるとか、大勢の営業やマーケティング人員を雇えるとか、そのような簡単な話ではなく、洗練された設計思想と、それを具現化させることができる目に見えない開発ノウハウを持っているかということが重要なのだと私は考える。これなくして、短期的な売り上げをあげることができても、現在のスマートHRのように中長期的に圧倒的な地位を獲得することはできなかったはずである。