「最後の晩ごはん 優しい犬とカレーライス」
椹野道流 角川文庫
を読みました。
椹野 ふしの 道流 みちる
“ふし”の字が探せませんでしたが、椹野川という川があるのですね。出てきました。
難しいけど、すてきな名前ですよね。
なんと、もう20巻目でした。
主人公は、元芸能人の海里くん。
ある事件が元で、芸能界を終われ、芦屋の「ばんめし屋」という店で、住み込みで働いています。
今回は、後輩の芸能人 李英くんの場面から始まります。
病気で、リハビリをしながら、復帰を目指している李英。今の事務所の人はわかってくれていて、治療に専念するように気を配ってくれています。
回復が芳しくない李英は、弱音を吐きたいけど、できません。
そんなところへ海里から連絡がきます。
まずは近況報告。
仲良しの先輩である海里には本音が出ます。
「けっこうつらいです」と…。
海里は、
「それってきっと凄くきついよな。わかるなんて言われたら猛烈にムカツクくらいきついよな」
「事務所の人たち相手に、ぼやくわけにいかねえもんな」
わかるとは言わないけれど、自分のつらい経験から李英に寄り添った言葉をかけます。
李英も、海里から聞いてほしいと頼まれた“朗読”をキッカケに、自分は病気を治すことが目標じゃなく、また演じることが目標だったと思い出します。
これだけでもドラマですが、今回は、親しくしている作家 淡海の家の前で、大きな黒い犬と出会うことから物語が始まっていきます。
淡海の作品、切られてしまう“街路樹の気持ち”を、海里が朗読します。
海里は犬と会ったあとの色々で、また朗読の解釈に深みが増していきます。
海里は、この世にないものが見えてしまう体質の人として描かれています。
今回は、あるモノの死から、より街路樹の気持ちに寄り添えるようになった気がします。
死ぬのは、別れが悲しいしつらい。
でも、悲しいばかりでなく、相手がすこやかに暮らしていってほしいと願う気持ちを持てるのが幸せなこと…というのは、わたしにとっても、新たな発見な気がしました。