「隠々洞ききがき抄 天和のお七火事」
杉本苑子 文春文庫
を読みました。
天和3年、八百屋お七は、前年の火事で仮住まいしていた松仙院で会った佐兵衛を好きになります。
佐兵衛はお互い好き合っている綾緒という人がいるのでなびきません。
お七は、また火事が起これば、佐兵衛に会える。自分の家に火をつければ罪にもならないと吉三郎に吹き込まれ、江戸中を巻き込む大火を起こしてしまいます。
もちろん捕まって、火あぶりの刑です。
佐兵衛は、綾緒が行方不明になって、探して歩きます。
その時、お七の相方だと思われ、逃げているところで、吉野金峰山の山伏である隠々洞に助けられます。
隠々洞は秘法で焼け跡の寺に埋まっていた小判を見つけ、人助けに使っていきます。
物語は、お七火事で未来を狂わされた人たちのことを書いてあります。
隠々洞はお金を渡すことについて、
「罹災者全員に二百文づつなんてケチな分け方はいやなんだ。よくよく事情をしらべ、金が生きると見きわめたら、十両でも二十両でもドカとひとりの人間に渡してやるつもりだよ」
と言っています。
今の時代でも、こうやってほしいなという考え方です。
火事の後、生活が一変してしまった人もいますが、そのあとの特需で、儲けていく人もいます。
全員同じにというのは、「悪平等」なのだと思います。
火事直後は、あれだけお七のことを罵っていた人々の中に、お七信奉者のような人もあらわれてきます。
これも、被災の度合いによるものかもしれませんが、人の心はこんなにも変わりやすいものだと考えさせられます。
そして、悲惨なだけではなく、人ってたくましいのだなと気づかされるお話しでした。