髪を撫でる手が気持ちいい。
サラサラと梳くように撫でられて覚醒しかけた意識が、また遠のいて眠ってしまいそうになる。
時折、頬に手が触れるその少し冷たい指を俺は良く知ってる。
「和....」
優しく名前を呼ばれてキュッと抱き寄せられた。
いつもの気持ちいい腕の中でまた微睡みに吸い込まれそうになるけど、あの優しい目が見たくてパチッと目を開けた。
ふにゃりと笑って、優しい目が糸みたいに細くなって、それから愛しそうに俺を見た。
「おはよ...さとし」
「和、おはよう」
「ん」
俺の声は思ったより掠れてて、そういえばパリに来たんだって思い出した。
枕元に置いてた水を飲んでさとしを見ると、俺にもちょーだいって言うから、ちょっとしたイタズラ心で口移しで飲ませてみた。
したらさとしのスイッチが入っちゃって、朝から反撃されてベッドを出たのはそれから2時間後になったのは俺のせいなのかな?
重くなった腰を擦りながら、今度から朝にイタズラすんのはやめようって思った。
「ごめん。腰痛いか?」
「ん?痛くはないけどちょっと重いかな」
「次からは気をつける」
ちょっとシュンとした顔で俺の腰を擦りながら言う。
その顔が可愛くて、いつだって俺を守ってくれるこの人を守りたいって思うんだ。
「朝ごはん...もうブランチかな。食べよ。野菜とかパンも揃ってたもんね」
「おいらが作るから和はもう少し寝てな」
優しく腰を撫でられながらチュッとキスをしてさとしはベッドから降りた。
うし!とか言いながら身体を伸ばして歩いていく。その背中も綺麗だなんて思ったりして、俺って本当にさとしのこと好きなんだなって今日も思う。
しばらくしてキッチンの方から香ばしい香りがしてきてお腹がグーって鳴る。
やっぱり朝からあんなに動いたんだもん。お腹空くよね。
そろそろ出来るころかなってベッドから降りてキッチンに行くと、ちょうどコーヒーを運んでて、テーブルには美味しそうなブランチが並んでた。
新鮮なレタスとトマト玉ねぎのサラダは美味しそうなドレッシングがかかってて、その横にはカリカリベーコンと半熟の目玉焼き。
ヨーグルトにはイチゴがカットされて入ってて、フランスパンはカリッと焼かれてバターが添えてある。
その横には黄金色のはちみつの入った小皿。
うん。あのフランスパンにバターを塗ってはちみつをかけたら美味しいだろうなぁ。
頭の中で想像してたらまたお腹が鳴った。
「和、ちょうど良かった。食べよ。このフランスパンめちゃくちゃいい香りすんだよ」
「うん。パンも野菜も卵もみんな美味しそう。食べよ」
2人で向き合って座っていただきますってする。
ご飯の前にはいただきます。ここがパリでも変わらないことのひとつ。
俺たちの生活する場所は変わっても、俺たちは変わらないし、色んな習慣もきっと変わらないんだろうなって思った。
「さとし!これすごい!!美味しい」
「な!フランスパンすげえな」
野菜も卵も味が濃くて、日本のものより新鮮な感じがした。
食料自給率も高く、美食の街って言うけど食材も良いんだねなんて話しながらあっという間に食べ終わって。
ゆっくりコーヒーを飲んで午後はゆっくり街を歩いてみようかなんて話してたら、玄関のチャイムが鳴った。