さっきから、入れ替わりでキッチンを覗きにくる年長組の2人。
翔さんは明らかに拗ねてるし、智もちょっと寂しそう。
だけどね、翔さんに手伝ってもらうわけには行かないでしょ?
今日の主役なんだからね。
それに、壊滅的な家事の腕前な翔さんは、包丁を持たせたら手を切りそうで怖いし。
野菜だって見分けがつかなくて違うもの持ってくるような人だもん。
ご飯の準備するにはね?
片や智は、お魚も捌けちゃうくらい料理も得意なんだけど、智にも手伝ってもらったりしたら、翔さんひとりぼっちになっちゃうじゃない。
だから、なるべくゆっくり帰って来てねって言っておいたのにね。
リビングを見ると、ちびちびとビールを飲みながらおつまみをつまんでる2人。
「智ー、翔さーん。ちょっと手伝ってくれる?」
声をかけた途端に、パッと顔を上げて嬉しそうにこっちを向いた。
「なに何?何したらいい?」
「何でもするぞ」
「はいはい。取り皿とかお箸とか餃子のタレとか運んでもらえます?もう出来上がるからね」
そう言うとオッケーと嬉しそうにお皿や箸を運び始める2人。
その姿を微笑ましく思いながら、冷蔵庫からサラダを出して、相葉さんオススメのドレッシングをかけてくるりと混ぜ合わせる。
葉っぱの模様のお皿に唐揚げを盛り付けて、くし切りにしたレモンも添えた。
横では潤くんがパスタを綺麗にお皿に盛って、ルッコラをのせてる。
相葉さんの餃子もパリッと焼きあがって、冷めないようにコードを抜いたホットプレートごとリビングに運び始めた。
「お待たせー!あっついから、ちょっと避けててねー」って、相葉さんの声に座ったばかりの2人がグラスを持ったまま、テーブルから離れる。
俺はテーブルの上をサッと空けてホットプレートを置く場所を作る。
その間に潤くんがサラダとパスタを運んでくれて、俺も唐揚げの皿を取りに戻った。
やっとみんな揃って座ると、いつもの俺たちの席順で。
それがやっぱり落ち着いて。
俺の右側には智。
前には翔さん、その横に相葉さん。
潤くんが俺と翔さんの間のお誕生日席にいる。
冷蔵庫から取り出した潤くんが買ってきてくれたシャンパンは程よく冷えていて、お気に入りのグラスで綺麗な泡が上に上がっていく。
『カンパーイ』
優しく合わせたグラス。
喉を潤していく美味しいお酒。
幼なじみのまーくんは、翔さんの隣で笑ってて。
翔さんは「うめぇ!これマジうめぇ!」ってそればっか言いながらもりもり食べてて。
潤くんがみんなのお皿にサラダを取り分けてくれて、優しい顔して笑ってる。
「幸せだなぁ」
小さく呟いた言葉は、いつもみたいにくっついて座ってる俺の恋人にだけ聞こえたみたい。
お互いの使わない右手と左手はいつも通り繋がっていて、その手がギュッと強く握られたから、俺もキュッと握り返した。
「しょーちゃん、これ俺のオススメのタレなの。ちょっと辛くていいんだよー」
ってなんかやたら赤いタレを翔さんに勧めてる。
「あれ、俺だったら死ぬと思う」
「だなぁ」
「カズは無理だろうね」
ひと口食べた翔さんは、真っ赤になりながら何とか飲み込んで。
その後盛大にむせた。
相葉さんは慌てて水を持ってきたり、背中をさすったりしてたけど、俺たち3人はそれを見てずっと笑ってた。
しばらくして落ち着いた翔さんに
「楽しいね?」
って言ったら
「そうだな」
って、あの笑顔を見せてくれた。
翔さん、お誕生日おめでとう。
おしまい