とっさに智のほうを向いた俺。
なんか言われるかなって思った俺の予想は大きく外れて、不機嫌なんて俺の見間違いだったのかと思うほど、普通にふにゃんと笑った智。
ほっとして声をかけると「んー?」といつも通りの柔らかい返事が返ってくる。
「帰り、早くない?」
「そうか?」
「撮影、早く終わったの?」
「ん」
いつもの智と俺の会話。
相葉さんと翔さんも今日の仕事の話をしてる。
潤くんはパスタの茹で加減を見ながら、フライパンにオリーブオイルとにんにくを入れて海老とホタテを炒めてる。
「とりあえず、あなたは翔さんとグラス出したりして、アッチに行っててください」
「んー。わかった」
ゆるい返事をして翔さんに声をかけて食器棚の方に歩いて行った。
潤くんのフライパンは海老とホタテを取り出してトマトペーストと生クリームが入って、コンソメ顆粒とお塩で味付けされていく。
相葉さんは握り終わった餃子をでかいホットプレートに並べて蓋をした。
俺の唐揚げはそろそろ2回目が揚がる頃で。
相葉さんはお酒のアテになりそうなツマミを作り始めた。
グラスを選んだ2人はリビングのやたら大きなローテーブルに綺麗なシャンパングラスを並べ終わって、もう退屈そう。
「なー、なんか手伝うことある?」
「え?」
翔さんが早速キッチンを覗きに来る。
相葉さんの手元を覗き込んで、何かすることないかって聞いてるけど...翔さん、包丁も怪しいしねぇ。
「あー、じゃあおーちゃんと先に飲んでて。これ、とりあえずおツマミ」
「お?え?いいの?」
相葉さんが差し出したのはハチミツをかけたクリームチーズと温めたクラッカーの乗ったお皿。
「あと少しだから待っててね」
「うん。ありがと」
そう言ってお皿を手に戻っていく翔さん。
それからビールを取りに来て、智と乾杯して飲み始める。
よし、今のうちに料理やっちゃおうと揚げ終わった唐揚げを盛り付けて、くし切りのレモンを添える。
相葉さんの餃子からもいい匂いがしてきて、潤くんのパスタは鍋からフライパンに移された。
トマトクリームソースの中には海老とホタテが戻されて、パスタと絡み合って美味しそう。
ガリガリとペッパーミルの音がして、お皿の上のパスタに粗めのブラックペッパーがかかる。
フライパンを洗い始めた潤くんの横で、相葉さんが餃子のタレを用意してる。
「かずくん!」
突然呼ばれて驚いたけど、見ると相葉さんの手元はタレまみれ。
「あーあ、こぼしたの?」
「なんか、倒れちゃって」
「倒れるようなところでやってるからでしょ」
運ぶためのお盆の上は、タレ皿がひしめいていてちょっと作業しにくそう。
そのうえでこぼれないようにやってたら、逆にこぼしたってことなんだろうな。
「まず、手を洗って。俺は皿の方やるから」
「わかった!」
皿の下を確認して、汚れてないものをどけて汚れてるのは流しにおろす。
手を洗った相葉さんについでにお盆も洗ってもらって、布巾で水気を吸い取った。
今度はタレはテーブルでお皿に入れよって言うと「あーそっか!」とか言うから「あいばか」って笑ったら、ゆるーくヘッドロックとかかけてくる。
ゆるくてもこの人の方が力も強いし、体格が違いすぎて全然動けない。
パンパン腕を叩いたら「まーくんごめんなさいって言ったら離してあげるー」とか言って、うひゃうひゃ笑ってるし。
仕方ないから言ってあげたら「かずくんかわいー」だって。
ぼさぼさになった髪をまーくんに直してもらってると、横から翔さんの声。
「なあ、なんかしょっぱい系のない?」
「はい」
横から小皿を出したのは潤くん。
イカの塩辛の上に細く刻んだ大葉とゴマがかかってる。
「あ、サンキュ」
「いいよ」
お皿を受け取っても、まだ名残惜しそうにキッチンから離れない翔さん。
「もー翔ちゃん、あっち行ってて」
って相葉さんに言われて、いつもより撫でた肩でリビングに戻っていった。