今日は久しぶりにアイツらとスタジオに集まる。
うちから自転車で5分の、自称イタリア系ハーフのチャラい店長がやってるコーヒー屋は、今の俺のイチオシだ。
毎朝、通勤前に寄って店長と話してコーヒーを買う。
店の前のスツールに座ってゆっくり1杯飲むと、細胞が目覚めて動き出す感じがして気持ちいい。
それが俺のルーティンだけど、今日は違う。
翔くんが探してるって言ってたフェアトレードのコーヒー豆。
それが入るかもって聞いたから店を覗いた。
「ボンジョルノー」
「はいはい。アレどうなった?」
今日もふざけてる店長にコーヒー豆のことを聞くと、来週入荷するって。
ありがとなーって礼を言って、いつものコーヒーをいつものスツールで飲んで、相葉くんのスタジオに向かった。
スタジオの扉を開くともうみんな揃ってて、相葉くんと大野さんとニノが床でなんかしてる。
「はよーって、何してんの?」
「リンが相葉さんをびっくりさせたから、相葉さんが楽譜を飛ばしちゃったの」
「マジか」
「うん」
しゃがんで一緒に楽譜を拾いはじめると、ニノの白い首筋が目に入る。
その瞬間思い浮かんだのは翔くんの白い背中。
いつだったかの夏。
一緒に行ったプールで、シャツを脱いだ翔くんの背中にドキッとして自分の気持ちを自覚したことを思い出す。
「ニノ、相変わらず白いなー」
「潤くんも白いよ」
「そうか?」
本当はその首筋に触れてみたいけど、さすがにそれは出来なくてほっぺたに手をあてた。
これが翔くんだったら…そう思ったからなのか、やけにニノが色っぽく見えて戸惑う。
戸惑った俺の鼻孔に翔くんの香水の匂い。
その香りにクラっとする。
「手伝うよ」
少し掠れたような甘い声が好きだ。
「翔さん、こないだ言ってたフェアトレードのコーヒー豆、今度入荷するって」
「あ、マジ?」
「あんま、かわいくない値段だったよ」
「だろ?でも取引先の部長が凝っててさ、潤なら知ってるかなーって。マジ助かります」
パンって手を合わせて俺を拝むみたいにしながらウィンクしてくるのは、ちょっと罪だよ。
『デカイ目だなぁ』
って、初対面の俺に言った翔くんは、俺よりでっかい目をしてた。
勉強が得意で世話好きな翔くんの周りには、いつもみんながいたけど、なぜか俺のこと弟みたいにかわいがってくれたよね。
尊敬が恋にスライドするとか、我ながら単純で嫌なんだけど、好きになっちゃったもんは仕方ない。
あの頃から 俺は翔くんの背中を追い続けてる。
「よし!準備完了ー!みんな歌おう」
相葉くんの明るい声がスタジオに響く。
みんなで1本のマイクを囲んで歌う。
それぞれの視線は交わっては離れて、声と一緒にこの空間を埋めていく。
だけど翔くんの視線は、いつも相葉くんの上で止まる。
俺はその意味を知ってる。
少しだけ胸が痛むけど、みんなで歌うこの歌が俺を癒してくれる。
歌い終わって余韻を楽しんでたら、相葉くんのワンコのリンが走ってきた。
みんなでおいでおいでって声をかけたけどフンってそっぽを向いて部屋の奥に行ってしまった。
翔くんはなんだよーって言いながら大げさに転んでて、みんなでなんだよアイツーって笑い合う。
あの頃から何も変わらない。
距離も時間も超えて、ここに同じようにいられることを、少し痛む胸で幸せだと思う。
優しいこの人達がいるこの空間が好きだ。
おしまい
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