「暑い....もームリッ!!」
へたりこんでた男の子、じゅんくんが額から汗を滴らせて叫んで、海の方へ走って行った。
「あ!待てよ潤!!」
「俺もー」
しょうくんとまさきくんが、走っていったじゅんくんを追いかけるように走り出す。
途中でじゅんくんを追い越したまさきくんは、そのままの勢いで海に走りこんでバシャーンと波を浴びた。
しょうくんはじゅんくんを捕まえて、2人でゆっくり波打ち際へ歩いて行った。
あははーって楽しそうに笑うまさきくんの声と、気持ちいいーって言うじゅんくんの声が聞こえる。
「かずも行くか?」
握られた手を海の方に突きだして、そう聞いたさとしくんの額にも汗が光ってて。
僕も暑くて。
「うん」って答えたら、さっと手を引いて走り出すさとしくん。
さっきの寂しかった気持ちはもう消えていて、なんだか楽しくなって僕も笑ってた。
波打ち際まで来ると立ち止まって、波が足元の砂をさらっていくのをくすぐったく感じながら、海水をかけっこしてる3人を見てた。
そのうち僕たちの方にも飛んできて、さとしくんはびしょ濡れになりながら僕の前に立ってくれてた。
さんざん遊んで、疲れたーってまさきくんが言い出した頃、道路の方から「かずーー!」って声が聞こえた。
パッと振り返るとお母さんとお父さんと姉ちゃんが道から僕に手を振ってる。
「おかあさーーん!おとうさーん!ねえちゃん!」
返事をする僕の方に急いで来てくれるのが見える。
ほっとして さとしくんを見たら、僕の手をぎゅっと握って「母ちゃん来てくれて良かったな」って笑った。
走ってきたお母さんにぎゅーって抱きしめられて、お父さんは頭をぐりぐりと撫でてくれて、姉ちゃんは良かったってちょっと泣きそうな顔してた。
僕は怒られると思ったけど、誰も僕を怒らなくて。
あの時、急にお腹の痛くなった姉ちゃんをお店の奥のトイレに連れていったんだって。
僕も着いてきてると思ってたのに、振り返ったらいなくて、僕を探してくれてたらしい。
ほっとした僕もちょっと泣きそうだったけど、さとしくんが笑ってたから泣かないでいられた。
それからお母さん達はさとしくんにお礼を言って、さとしくんの話を聞いて電話番号を聞いたりしてた。
「さとしくん、みんな、ありがとう。またね」
たくさんありがとうを言って、なんでか寂しい気持ちになったけど、お父さんの車に乗った。
窓の外で僕に手を振ってくれるさとしくんに、僕もずっと手を振った。
大きくカーブした道を曲がると、小さくなったさとしくんは見えなくなって。
それが、僕がさとしくんを見た最後の記憶。
あの暑かった夏。
あれは、もう10年も前の事なんだね。