「にの」
「にの」
「にーのー」
「かーずーくーーーん」
「おまっ!馬鹿じゃねぇの!」
テレビのレギュラー番組の撮影の合間に、相葉さんと雑誌の取材を受ける。
いつものライターさんとの会話も弾んで、写真もあっという間に撮り終わって『ありがとうございました』って、挨拶してリハーサル室を後にした。
週刊誌の連載の撮影はこんなふうに控え室にもなったりするリハーサル室で撮ることがほとんどだったりする。
次の衣装の後はたぶん翔さんと潤くんが取材だったよな。
考えながら5人の楽屋へ戻る廊下をいつもと同じように歩いてたら、隣を歩く相葉さんが俺の名前を何度も呼ぶ。
どうせさとしとの事を言われるのは分かってる。
だから無視してたのに、コイツは本当にバカで優しい。
かずくんって、お前、それいつの呼び方だよ。
うんと子どもの頃にお互いを呼びあってた時の記憶が蘇ってくる。
て、懐かしくなってる場合じゃないんだよね。
周りを歩いてるスタッフさんもこっち見てんじゃないか。
思わずバカって言っちゃって相葉さんの顔を見たら、わかりやすくしょげてるし。
俺の声がデカくてスタッフさんが振り向いたのかもしれないけど、原因は相葉さんだもん。
だけど、しょげてる相葉さんを放っておくことも出来なくて、小さくごめんって謝った。
そしたらもう、なんか嬉しそうになっちゃって「ねぇかずくん」なんて話しかけてくる。
あー、もう。
これ以上無視することなんて出来ない。
ため息をつきたいのをこらえて返事をする。
「なんですか」
「あのさ、どうするの?」
相変わらず主語のない話し方。
この人とさとしはこんな所がちょっと似てる。
それさえ俺の胸を痛めるって、コイツは気づいてるんだろうか?
「どうするってなに?」
「おーちゃんのこと」
「どうもしないです」
「なんで?」
「相葉さんに話す必要ないと思いますけど」
ムッとした顔してる。
あー、マズイかも。
この人がこんな顔してる時は爆弾落とすんだよ。
「まだ好きなんだよね」
「答える必要あります?」
「なんで?」
「なにが?」
「好きならそばに居たいんじゃないの?」
ほら
やっぱりだよ。
コイツは馬鹿みたいに真っ直ぐだから、その言葉に反論なんて出来ないんだ。
そんなふうに聞かれたら、うんって言っちゃいそうになるだろ。
だからヤだったんだ。
痛む胸を無視して一言だけ返事をした。
「当たり前のこと言ってんなよ」
その後はもう、相葉さんの言葉に返事を出来なかった。