涙を拭いたかずと2人で1階におりる。
顔を洗って、歯磨きをして2人でキッチンに立つ。
サラダ用のレタスを洗う俺の横で、スッと包丁を取り出したかずの無表情な顔にドキッとする。
「さとし....トマト...」
左手に包丁を持ってこっちを向いて話すかず。
洗い桶の中のトマトをゆすいでかずに手渡すと、ありがとって言った。
ほんの少し触れた指先が冷たい。
色のないかずの目。
ゾクッとした。
冷や汗が背中をツーっと流れて、水の中の手をギュッと握る。
怯えちゃだめだ。
かずの様子に目を配って、気をつけなきゃいけないけど、怯えるのはだめだ。
だけど、思い出す...昨日のかずを。
今朝、目を覚ましたかずは昨日のことを全く覚えてなくて、俺の顔にあるアザを心配してた。
だけど、きっとまたあんなことが起こる。
かずにココロの傷がある限り、きっと何度も繰り返す。
クッションをズタズタにするのだって、今も繰り返してるんだ。
昨日は潤がいたからかずを制止できた。
明日からは潤はいない。
相葉さんも櫻井さんもたぶんほとんどこっちには帰ってこない。
俺ひとりでかずを支えて、守って行かなきゃなんない。
ずっとそのつもりでいたし、今だってその気持ちは1ミリだって変わってない。
だけど、だけどさ。
怖いと思う。
暴れるかずを止める手立てを考えなくちゃって思う。
これから先、ふたりで生きていくためにも、ここが踏ん張りどころだって気がしてる。
「さとし、トマト切った...」
「あ、すげ。やっぱ綺麗だな」
「ん」
かずの切ったトマトは綺麗に揃ってて、それがなんかたまんない気持ちにさせる。
綺麗だなって言った俺にコクっと頷いたかずの頬は少しピンクになって、嬉しいんだってわかる。
少しずつ、少しずつ表情が増えて。
少しずつ、かずらしく戻っていく。
「次。キュウリいける?」
「ん」
受け取ったキュウリを薄く切っていくかず。
淀みないその手つきは前と何も変わらないように見える。
レタスをちぎって皿に置いていくと、横からかずがトマトとキュウリを置く。
ベーコンを焼いて、目玉焼きを作って、冷蔵庫にしまっておいた残りご飯をあっためる。
お湯を注ぐだけのコーンスープも見つけて用意した。
並べ終わる頃、潤が自分で降りてきて冷蔵庫から水のペットボトルを出しゴクゴク飲んだ。
「ニノ、おはよ。大野さんもおはよ」
「ん、おはよう」
「潤くん...」
「あ、俺さとりあえず朝イチで大学行ってくる。親にも連絡したんだけどまだ親父と話せてないから、東京行くの明日か明後日になるかも」
「そっか」
「うん。ちょっと昼過ぎないとわかんねぇ」
「じゃあわかったら教えて」
「ん。....あ、キュウリめっちゃ綺麗に切れてんじゃん。ニノ?」
潤の言葉に頷いて皿を運ぶかず。
俺は頭をブンっとふって、今考えても分かんないことは、とりあえず置いとこうと思った。
3人でダイニングテーブルについて、朝ごはんを食べた。