「ごめん」
潤が肩で息をしてる。
抱きとめたかずを見て、潤を見た。
「かず大丈夫なのか?」
「大丈夫」
もう一度じっとかずを見ると、スーッと静かな寝息が聞こえてちょっと安心した。
クタっとしてるかずを抱きかかえてソファーに寝かせると、潤が痛そうに顔を顰めて言った。
「大野さん、顔ひでぇ。鏡見てきなよ」
「へ?」
「顔、血だらけ」
「マジ?」
「うん」
洗面所に行くと、鏡の中には鼻血で顔中血だらけの俺。
かずの腕が思いっきり当たったんだろうな。
鼻が腫れて、いつもより大きくなってた。
顔を洗ったら唇の端がシカっと痛んで、鏡で確認したら潤が言ったとおり少し切れてた。
鼻血が止まんないから、ティッシュを詰めようとしたけど、あまりの痛さに断念した。
しかたないから、一番ボロいタオルを出して鼻をおさえる。
そのままリビングに戻るとかずは、まだソファーで眠ってた。
俺をめちゃくちゃに殴ったせいで、鼻血がついて赤くなってる手。
拭いてやらなきゃって思って、リビングの除菌ウエットで拭いてやる。
かずの手を拭きながら潤と話す。
かずがなんで突然倒れたのか俺は分かんなくて、潤に聞いたら危ねぇって思ったら咄嗟にやってたって言うから、何したのか聞いたら手刀だって。
素人がそんなこと出来んのかなって思ってたら、顔に出てたんかな?
俺、空手黒帯だからってさらっと言った潤。
あの厳しい目はそういう事かって、なんか納得した。
俺達がぼそぼそ話してても全然起きないかず。
どうせかずが寝てるなら、その間に松にいに電話しとこうと思って、潤が拾ってくれてたスマホを手に取る。
耐衝撃のスマホで良かったって、心底思った。
外国に行くことも多かったから、とにかく丈夫で塵とか埃とか水に強いスマホってのが一番大事な条件だったから、それが役に立った。
リダイヤルを押そうと思ったら、軽快なマリンバの音がして、松にいからの着信の画面に切り替わった。
通話ボタンを押すとどうしたー?って、暢気な松にいの声。
潤がオーディション受かったよって言ったら、めちゃくちゃ喜んでくれて、そこにいるならちょっと代われよってうるさいから、潤にスマホを渡した。
何を話してるのかは分かんないけど、潤が嬉しそうに笑ってありがとうございますって何度も言ってたのが印象的だった。
話してる潤をよそに、眠るかずを見てた。
大野さんって呼ばれて潤をみると、スマホを差し出された。
松にいはご機嫌で、そういや潤の住むところの事聞いてみようって思って言ってみる。
「潤、住むところ決まってないんだけど、松にいどっかいい所知らない?」
言った途端に怒鳴られた。
「バッカやろ、お前、住むとこなんて自分で探さなきゃ意味ねぇだろ?甘ったれてんなよ」
「.....ごめん」
「まぁいいや、小僧のケー番、後で送っとけ」
「うん。ありがと」
あんなふうに怒鳴っても、松にいは結局優しいからきっと潤に連絡してくれるはず。
電話を切って、潤の番号を松にいへのメールに入力しながら潤に松にいの言ってた事を話した。