あっという間に食べ終わった潤。
かずはゆっくり食べてて、もうあと少しで食べ終わる。
そういやでかい封筒届いてたなって思い出して、置いといた棚から取ってきて潤に渡した。
「これ、今日届いたやつ」
「あ、ありがと。うん、届くって聞いてる」
封筒を受け取ると中身を確認しながら席を立って、そのまま2階へあがって行った。
かずは、そんな潤をじっと見てた。
潤には反応してる。
なんでだ?
考えても何でなのかわかんなくて、眉間にシワが寄りそうになったのを見られないように立ち上がって、自分の食器を重ねた。
潤の食器も重ねる間にかずは味噌汁を飲みきって、小さい声でごちそうさまっていった。
「食器、片付けるな」
「.......」
返事をしないかずに話しかけて、後片付けを始める。
返事はしないのに、やっぱりかずは俺の後ろに立ってじっと俺を見てる。
なんなんだ?
本当にどうしたんだ?
疑問に思うけど、返事しないのは分かってるから、俺も黙ったままで後片付けをした。
薬と水を用意して、後ろから無言でついてくるかずとリビングのラグに座った。
「かず、薬飲もうな」
「.........」
返事はしないけど薬を口に放り込んで、水を取って飲みこんだ。
かず、もしかして拗ねてんのか?
昼寝から起きた時、俺が居なかったから怒ってるのか?
そうだったらいいな。
そう思いながら、またスケッチブックを取り出して、かずを描き始めた。
かずはラグにすわったままで月を見てた。
二枚目にさしかかる頃、2階から潤が降りてきた。
「あのさ、ちょっといい?」
そう言ってラグに座った潤。
それからちょっと緊張してるみたいな顔で話し出す。
明日、東京に行くって言った潤。
大学のこととか、バイトどうするとか、住むところのこととか、まだなんにも決めてないけど行くって。
大丈夫なのかって思ったけど、潤の顔が決めたって顔だったから、そうかってそれしかいえなかった。
急で悪いけど、今月でここも解約するって。
それは、かずがこの状態だから相葉さんに聞くって。
かずはじっと潤の顔を見てた。
とりあえずホテル泊まるしかないかなぁって言ってる潤。
俺は松にいの知り合いって東京にいっぱい居たよなって思い出して、ちょっと電話かけてみるって言ってスマホをポケットから取りだした。
通話ボタンを押したと同時くらいにキィィィィィィって甲高い声が聞こえて、何かが俺のスマホをむしり取った。
むしり取られた俺のスホは、壁に激突すると派手な音を立てて床に落ちた。
「ニノ!」
潤の焦ったような声が聞こえた。
目の前には吊り上がった目と、膨らんだ鼻。
興奮で赤くなってる顔と、大きく開いた口。
甲高い声で何かを叫んでる。
人の顔ってこんなに変わるのか?
見たことのないかず。
怖かった。
ただ、怖いと思った。
かずの手が俺のシャツの胸元を締め上げて叫びながら俺の上にのしかかってくる。
のしかかられた衝撃で、後ろに倒れてガンって頭が床にぶつかった。
痛くて目が眩んでる俺の胸の上に乗ってきたかずが、ぐっと俺の首元を押さえつけてくる。
苦しくて、息が詰まって、必死でかずの手を叩くけど緩むことなく更にグッとチカラが込められた。
それでも叩き続けると、一瞬フッと力がゆるんだ。
急に空気が肺に流れ込んで咳き込む。
ゲホゲホと咳き込む俺を、今度はめちゃくちゃに殴ってくるかず。
泣きながら、腕を振り回しながら、訳のわからない言葉を叫びながら俺をめちゃくちゃに殴りつける。
苦しくて、意識が朦朧とする。
かずが何を言ってるのか分からない。
だけど、声が。
かずの声が。
顔が。
滲む視界の中で歪んだ口元。
唇からは、冷たい声。
「ウソツキ.....」
頭がクラクラする。
マジでヤバイかもしれない。
鬼みたいって、こんな顔なのか?
キィィィィィィってまた叫んで、その時また力が緩んだから、腹筋を使ってかずを弾き飛ばす勢いで起き上がる。
不意をつかれてゴロゴロっと真後ろに転がっていったかず。
転がったままピクリとも動かない.....。
ヤバイ、まさか死んでないよな。
声をかけることも忘れてかずに手を伸ばした。
その肩に触れた瞬間、めちゃくちゃに腕を振り回して倒れたままで暴れ始める。
抱き起こそうと身を屈めた俺の鼻に、かずの肘がヒットして鼻がもげたかと思うくらい痛かった。
痛くてクラっとしたままかずを見てたら、自分で起き上がって俺の方に殴りかかってくる。
好きなのに、伝わらなくて焦る。
かずを宥めることも出来なくて、どうしていいのか分からない。
ウソツキウソツキウソツキって繰り返しながら、めちゃくちゃに振り回す腕に殴られて痛い。
暴れ続けて、叫び続けるかず。
抱きしめることも出来ないくらい暴れ続けて。
声はもうカスカスに掠れてて。
周りの音も聞こえてないみたいな、同じことばかり繰り返すかず。
宥めようと伸ばした手。
その手を弾かれて、傷ついた。
だけど、とにかく暴れるのを止めなきゃって。
ぐっと腕を掴んで引き寄せようとしたら、暴れるかずの顔にビンタしたみたいになって。
ピタッとかずの動きが止まると、鬼みたいだった顔からスッと表情が消えた。
バッと身体を翻して、テーブルの上のハサミを掴んだかず。
爪が白くなるほど強く握りしめて、サッと上に手を上げて俺に向かってくる。
殺されるって思ったけど、動けなかった。
「うあああああああ!」
スローモーションみたいにおりてくるハサミが見える。
目だけが血走ってるかずに、ふんわりと笑うかずが重なる。
「さとし、好きだよ」
「ねぇ、散歩行こ?」
「ご飯、どうしようかなぁ」
なんだこれ?
まだ元気だった頃のかずがいっぱい出てくる。
走馬灯?ってこんな感じなのか?
やべぇ、俺死ぬのかって思った。
かずの持ったハサミが俺の顔まで15センチってとこで、かずが突然ビクっとした。
そこからカクっと崩れ落ちていくかず。
かずの後ろに、泣きそうな顔の潤がぼんやり見えた。