自転車を飛ばしながら、考えるのはかずのことばかりで。
シェアハウス大丈夫かなって思いながら、今度来る時はかずを自転車の後ろに乗せてこようって思ってた。
2人で風切って、坂道登ってかずの体温感じたいんだ。
かずを守る。
かずを愛してる。
それだけで良いってわかったから。
迷う時も、不安な時も、2人で手を繋いでいようって思えたから。
早くかずに会いたくて、どんなかずだってもう揺れない、迷わないって心の中で何度も言いながらペダルを漕いだ。
全力で自転車を漕いだせいか、ちょっと息切れしながら、シェアハウスの前で自転車から降りた。
門を開けようとしたら、中から飛び出してきたはだけたシャツと下は丸出しで洋服抱えた男。
なんだアレ?
変態か?
いや、そうじゃねぇ。
そうだけど、そうじゃねぇ。
シェアハウスの中から出てきたんだよな?
かずは?
どっと冷や汗が背中を伝った。
自転車を玄関の横に置いて、家の中に飛び込む。
散らかった靴。
「かずっ」
慌ててリビングに駆け込む。
ソファーにいたはずのかずがそこに居なくて、ぶわっと汗が吹き出す。
どこだ?
その時2階から叫び声とガタガタ騒ぐ音がして、階段を駆け上がった。
開け放された櫻井さんの部屋のドアの前、真っ白な顔でつっ立ってるかずがいた。
目は櫻井さんの部屋の中に向かってて。
1点だけをじっと見つめてる。
迷子の子どもみたいな顔。
抱きしめてやりたいと思った。
「かず、大丈夫か?」
「..........」
「ごめんな。置いていって」
「..........」
俺の方を向いて、そっと歩いてきた。
なんだよ、その目は.....。
もしかして、俺のこと待ってたのか?
かずはなんにも言わなかったけど、俺はかずをぎゅっと抱きしめた。
カチンと固まったかずの身体からフッと力が抜けて、ゆっくり俺の方を見た。
誰?って、俺のことわかって無いみたいな顔で見た。
だけど、かずは俺の腕の中にいた。
振り払うことも、嫌がることもしなかった。
それだけで、すげぇ嬉しかった。
少しは俺の気持ち伝わったかもって、思えた。
その時、部屋の中から大きな叫び声とガタガタって音がした。
俺はかずのことしか頭になくて。
かずだけを見てたから、驚いた。
ヒステリックな相葉さんの声が怖かった。
「死なせてよ‼︎」
「雅紀」
「もういいでしょ⁉︎もう嫌だ‼︎もう何もかも嫌なんだ‼︎こんなオレはもう要らない‼︎」
何も着てない相葉さんの身体には赤い跡が沢山ついてて、2人の向こうに刃が出たままのカッターが見える。
何があったのかなんて、聞かなくてもわかった。
また、なのか?
こないだズタズタに傷ついて帰ってきた相葉さんの姿が目に浮かんでくる。
こんなこと、そんなにあることなのか?
あの逃げてったオトコが犯人?
どうやってこの家に入った?
アイツがあの悪魔?
それなら、アイツがまた来たらどうすんだ?
疑問ばっかり頭の中を巡る。
狙われてるのは相葉さんなんだよな?
でも、この家を知ってるならかずは?
その間も相葉さんは叫んでて、櫻井さんの声が間に聞こえる。
聞きたいことは沢山あるけど、怖くて、なんにも言えなくて。
言えるわけなくて。
俺がかずを抱きしめたら、かずは俺のシャツの裾の方をぎゅっとつかんだ。
「汚いオレに触らないで‼︎悪魔が触ったオレなんかに触らないで‼︎離してよ‼︎離せ‼︎」
相葉さんの声が響く。
錯乱って、言葉はこういう時に使うのかなんて思って、そんなこと考えてる場合じゃないのに。
怖くて、でもかずを守るのは俺だって。
それだけは思ってて。
暴れる相葉さんを抱きしめ続ける櫻井さんがすごくて。
「俺は雅紀が好きだよ。絶対にそれは変わらない。何があっても、変わらない」
あんなに全力で拒否してるのに
あんなに全力で抱きしめてる。
抱きしめてるかずの顔をのぞき込んだら、真っ青な顔で、目には涙がいっぱいで。
唇を噛みしめてた。
不安にさせたくないんだ。
泣かせたくないんだ。
どうしたらいい?
噛みしめた唇に手をやって、口を開かせて血が出てないか確かめた。
暴れ続ける相葉さんが、かずに見える。
必死で逃げようとする相葉さんを、決して離さない櫻井さんの強さ。
揺るぎない想い。
抱きしめ続ける櫻井さんに、突然、相葉さんが縋りつくように全身を預けた。
俺は、それをじっと見てた。
かずの温もりを感じながら、じっと見てた。