「知ってるよ。潤くん、ずっとあの子と付き合ってるんでしょ?俺もね.....いるんだよ」
途中から、耳がおかしくなったんだろうか?
カズの言ってることが理解できない。
俺もいる。俺もいるって言ったのか?
俺に、ずっと付き合ってる相手がいると思われてることよりも、カズにそうゆう相手がいるって言われたことの方がショックだった。
『その子とは何でもないよ。俺が好きなのはカズだから.....』
言いかけた言葉は、味も感じない酒と一緒に俺の中に戻った。
カズに、恋人がいるなら。
それを、俺に言うのなら。
俺はこの気持ちを、伝えたりしないよ。
それって、大野さんのことだろ?
いや、違うかな。
もしかしたら、あの記事になってた子か?
違うよってあの時言ってたけど、ただ言えなかっただけなのか?
言うってことは、それだけ大事って事だよな。
本気.....なんだよな?
それならさ、俺の出来ることはひとつだよ。
お前の幸せのために協力するよ。
だけどさ、相手は聞きたくねえな。
大野さんとか言われちゃったら、俺、これから先、2人のこと見れる自信ない。
カズのことが好きだった。
いつも隣に居て、笑い合ったり励まし合ったりしたかった。
それを、同じメンバーのあの人が手に入れたと思うと、嫉妬で頭がおかしくなるかと思う。
そうじゃないかと疑っているのと、そうだと知っているのとでは、天と地ほどに差がある。
カズがニコニコと話してる。
俺は、うんとか、そうなのかって返事をしながら、カズの言葉の矛盾点を探してる。
どこかに綻びが無いか、俺を騙そうとしてるんじゃないのかって、必死で手がかりを探してる。
そんなこと考えながらも、もう1人の俺はなんにも気付かないふりをしろって訴える。
なんにも考えるな。
そのまま受け入れろ。
お前の気持ちは届かない。
諦めろって声が聞こえる。
その声に従った方がいいって事くらい、俺だって分かる。
だけど
カズを思い続けた日々が、頭の中を駆け巡るんだ。
俺に笑いかけるカズ。
恥ずかしそうに俯くカズ。
イタズラを仕掛ける子供みたいなカズ。
ため息が出るほど色っぽいカズ。
忘れよう。忘れなきゃ。
カズの幸せをすぐ近くで見守ってやろうぜ。
そう思うそばから、そんなの無理だ!嫌だって心が叫ぶ。
心の中は嵐が吹き荒れていたけど、そろそろお開きにしようかって言うカズに頷いた。
今日は奢るよって言って立ち上がる。
カズは、いつものように「さすが潤くん。ありがとうございます!」とか、敬礼なんてしながら言ってくる。
「潤くん、大好きだよ。ありがと」
奢ることへのお礼だって分かってた。
分かってたけど、我慢出来なかった。
カズに、大事な人がいることも忘れてた。
にっこり笑って、大好きだよって言ったカズを抱き寄せて、掠めるようにキスをした。
「ごちそうさま」
咄嗟にふざけたフリをして、誤魔化した。
カズはいつものおふざけだと思ったんだろう。
真っ赤になりながらも
「もー、潤くん」
って、俺の腕にパンチをしてきたから、思いきり笑って見せた。
「ゴチですっ」
「ゴチですっ」
バカみたいに笑い合いながら、店の前でカズをタクシーに乗せて見送る。
タクシーの中のカズが振り返ったような気がしたけど、よく分からなかった。
自分もタクシーに乗って行き先を告げると、帽子で顔を隠して寝たふりをした。