「おはようございます」
「おはよー、にのちゃん」
「おはよう、ニノ」
楽屋の扉を開けたら、翔さんと相葉さんだけだった。
いつも通りの挨拶をして、いつもの場所に座る。
「にのちゃん」
「なんですか」
「今日、何かあるの?」
「は?」
「あるの?」
相葉さんの問いかけに言葉を失う。なになに?なんなの?俺、挙動不審なの?
それともこの天然でミラクルな人が何かを感じ取った?
気づかれたりしないように、平静を装う。
「かずくん、なんか変だもん」
「何それ、気のせいでしょ?」
「それとも何かあった?」
「無いですよ」
うーんって首を捻る相葉さん。
呼び方がかずくんになってるから、かなり無意識に何かを感じ取ってるのかもしれないな。
俺にとって数少ない親友のこの人は、智とは別のやり方で俺を守ろうとしてくれる。
俺の何かを感じ取ったんだろうな。
嬉しいけど、言わないよ。
首を捻る相葉さんに心の中で謝って、いつもの場所に座った。
カバンからスマホを取り出したら、ドアが開いて潤くんと智が入ってきた。
いつも通りの挨拶。
いつも通りの場所につく。
いつもと違うのは俺の気持ち。
潤くんの顔色を確認するくせも、声を聞き逃さないように耳をすませるのも、今日が最後。
明日からは、ただのメンバーに戻るんだ。
ううん。
今までだって、そうだった。
この気持ちは俺の中にだけ存在して、どこにも存在しないのと同じ。
誰にも知られることなく芽生えて
誰にも知られることなく萎れていくんだ。
その日の仕事は嫌になるほど順調で、予定より少し早く終わった。
着替えを済ませてカバンをかけたら、潤くんから声がかかった。
「カズ、やっぱり早いな。ちょっと待ってて」
「うん」
待っててなんて、そんな言葉が嬉しい。
それは、その先を確保されてる言葉だから。
その音を忘れないようにしようと思った。
いつか、潤くん以外の人を好きになってもその音を忘れたくないと思った。
「お待たせ、カズ。行こっか」
「うん」
潤くんについて楽屋を出る。
少し前を歩く背中。
いつの間にか逞しくなったね。
ストイックな潤くんらしいよ。
潤くん、好きだよ。
どうしようもなく好きだよ。
潤くん
潤くん
今日で最後にするから
今日は好きでいさせてね。