「っ!」
声が出そうになって、ヤバイって思って口を手で塞いだ。
なんでこんなにドキドキしてるの?
いや、あれはそうゆう意味じゃなくて、メンバーとしての言葉だよね。
そうだよ。潤くんが男の俺に惚れたりするわけない。
落ち着け俺。
口から飛び出しそうだった言葉は、そのまま消えてしまった。
口を手で覆ったまま、そこから動けなくて。
冷静になろうとすればするほど、頭の中は混乱していって、耳が熱くなっていく。
深呼吸しよう!そう思った時、楽屋のドアが開いて智が眠そうに入ってきた。
眠る潤くんの横で立ち竦む俺を見て、何を思ったのか小さなカバンを机の上に置くと、俺の手首を掴んで楽屋から連れ出した。
何も話さないまま廊下を歩く。
智と俺の足音だけが響く。
こんな日に限って、誰ともすれ違わない。
奥まったところにある、滅多に人の来ない喫煙ルームの横の自販機コーナーに、連れてこられていた。
俺をボロい長椅子に座らせて
「なんか飲むか?」
静かに聞かれた。
答えない俺に渡されたのは、この人の好きなココア。
俺、こんな甘いの飲まねえのに。
「なんでココアなの」
「お前、顔色悪いから」
「...そっか」
「おう。それ飲め」
「うん」
プルタブを開けてひと口飲んだら、あまりの甘さにちょっとびっくりしたけど、気持ちは温まっていくような気がした。
こんな所まで連れてきたのに、なんにも聞かないでココアを飲む隣に座る人。
静かな空間で、さっきの潤くんの寝言を思い出す。
どうしたらいい?
知らないふりをすれば良いってわかってる。
だけど、それは正解?
正解って誰にとって?
俺?
潤くん?
それとも嵐?
わかんねえ。
なんでこんなに悩んでるのかも。
なんでこんなに苦しいのかも。
頬に親指が触れて、すっと滑っていって。
その綺麗な手でそのまま頬を包まれた。
「なによ、おじさん」
「おじさんじゃねえわ」
「なによ」
「お前、気づいてないんか?」
「だから、なによ」
「お前.....泣いてる。涙こぼれてる」
そう言って、また指親が頬を滑る。
嘘だ.....。
そう思って自分の頬に触れたら涙で濡れてて、なんか余計に悲しくなって、ポロポロと涙がこぼれ始めた。
「かず」
智は俺の泣き顔を隠すみたいにオレを抱き寄せて、その肩で俺の涙を受け止めてくれた。
泣いてる間、ずっと優しく撫でられる髪から、この人の愛情が伝わってきて、なんだかとても安心したんだ。