俺たちのマンションに着くまで、さとしは俺のひざに頭を乗せて目をつぶってた。
寝てるわけじゃなくて、手を合わせて指を絡めて、時々優しく握られて。
さとしが口元に手を引き寄せて、俺の薬指の根本から指先へとキスをする。
そんなの.....ズルイ。
そんなことされたら、俺たまんないよ。
すうっと深呼吸して、バクバクしてる心臓を落ち着かせる。
愛しそうに指で指を撫でながら、キスもやめないから、身体が震えてくる。
早く抱きしめられたくて、早く愛されたくて眠たいふりをしながら、さとしの手の甲を親指ですりすりと撫でる。
さとしは、表情ひとつ変えないで寝たフリしてる。
なんだか悔しくなったから、空いてる手でさとしの少しだけふっくらした頬をつねってやった。
一瞬だけ薄く開いた目は、俺が思ってた色じゃなかった。
きっと、ちょっと拗ねたような、少しムーっとしたような目をしてると思ったんだけど。
違ってた。
熱を帯びて色っぽいのに、もの凄く怒ってる。
その目で殺されそう。
急に、息が苦しくなる。
この人の本気が見えて。
この人の雄が見えて。
その度に、俺はこの人のものだと思い知らされる。
数年に1度、俺が揺れる。
さとしは、揺れない。
揺れる俺を、優しく見守ってるけど。
この人は、とんでもない束縛をしてくる。
揺れてる俺を、どこにも出かけさせないように、マネージャーを巻き込んで、出来る限り現場まで迎えに来る。外部の人からも、社内の人からの誘いも、マネージャーがやんわり断るようになる。
全面的にさとしの味方なマネージャー。
俺は抵抗することも許されず、モヤモヤを抱えながらこの人の腕の中に帰るんだ。
それは、間違いなく幸せで。
俺の小さな迷いも、罪悪感もさとしが消してくれるから、さとしの腕の中で笑うことを思い出す。
愛してくれていること。
俺が一番わかってる。
さとししかいないことも
俺はわかってる。
だから、そんなに怒ってるんだよね。
俺が揺れただけでも、すごく怒るのに。
俺が逃げたから。
他のやつの所に逃げたから。
すぐに瞑ってしまったその目に息を詰めたままで、タクシーはマンションの地下についた。