口許が笑ってるように、弧を描いてる。
おいらの好きな、薄い上唇とふっくらした下唇が動いてかずの言葉がこぼれ始めた。
「そうです。大事な人がいるんです」
「ニノっ」
「にのちゃんっ」
「カズっ」
チラリと3人を見て、なにも言えずにいるおいらを見て、また話し出す。
「だから、あの歌を大切に歌いました。心を込めて、おれの気持ちが届くように、祈るような気持ちで....」
「もういいっ!もうやめてくれ!」
「あんたが聞きたいって言ったんでしょ?だから話してるのに、聞けよ、最後まで」
ショックで、何を言われてるのか理解するのを脳が拒否する。
「大好きな人がいます。その人を忘れられない........そう言ったら、本当にそうだったら、あんた、どうすんの?」
「かず.............」
「ねえ?そうだとしたら、あんたは俺の手を離すの?今、離したみたいに。俺を放り出すんだ、あんたの心から」
「か....ず.......」
「よく分かった。もう、良いよ」
「もう良いって....なに?」
「俺、あの家を出るから」
「え?」
「俺とあんたはもうおしまい。サヨナラってことだよ」
「....なんで?」
「なんで?....あんたが、俺を信じてないから。一緒にいる意味無いでしょ?」
「あんたって言うなよ!」
「そんなことどうでも良いだろ?」
「良くねえ!おいらが嫌がるのわかってて言ってんだろ」
「だったらなんだよ!」
かずが怒ってる。
真剣に怒ってる。
目に涙を浮かべて、おいらをあんたって呼んで、最近の嘘臭い顔はしてない。
嬉しかった。
やっと、まともにかずの顔を見た気がした。
やっと、かずの声を聞いたと思った。
「かず、疑ってごめん。おいらお前が好きだ」
「やだよ。あんたは俺を手放そうとした。ずっと一緒にいるって約束したのに」
「かず....」
「俺は、あんたがほかに好きな人ができたって言っても、手を離せそうに無いのに。あんたはそうじゃないんだね」
「かずっ!」
「サヨナラ」
「嫌だ!」
揺らぎもしなかったかずの目が、ゆらっと揺れた。
ゆっくりと膨れ上がる涙が、コロコロとこぼれ落ちて、かずの頬を濡らしていく。
「かず、好きだ」
離してしまった手をもう一度繋いで、かずを引き寄せて、キスをした。