さとしの家を出た。
行くところが、見つかったから。
さとしのお気に入りのパン屋さん。
店長でオーナーの相葉さんは、いつも優しい。人が苦手な俺にも、分け隔てなく接してくれた人。
親が死んじゃって、親戚も居なくて、もうどうして良いのか分からなかったとき。
親切な顔で世話をしてくれた父さんの友人だったと言う人に、家も、貯蓄も、何もかも盗られて、茫然として街をふらふらしてた。
そんなときに、さとしに出会った。
誰も信じられないと思ってた。
だけど、俺を見るさとしの目に惹かれて、どうしても無視出来なくて、後をついていった。
返事もしなくて、笑わなくて、喋りもしない俺を、さとしは、そのまま受け入れてくれた。
正直なところ、俺、さとしが変な人で酷いことされてもいいやって思ってた。
生きてても仕方ないし、ペットみたいに生きたいと思って「わん」って返事した。
そのうち、感覚も鈍くなって、悲しいとか、寂しいとか思わなくなって、とにかく眠くて、いつもウトウトしてた。
だけど、さとしは怒らなかった。
いつも、ふにゃんと笑ってた。
俺の頭を撫でてくれた。
お風呂を嫌がったら、一緒に入ってくれた。
少しずつ、また色んな事を感じるようになって、さとしが俺とお風呂に入ったときに、大きくなってるのを不思議に思ったりして。
今思えば、あの頃俺は、現実から目を反らしてたんだ。
何にも分からなくても、わんこなら許されるって。
そんな俺に、沢山の優しさと愛情をくれたのはさとし。
ちゃんとしようって思い始めた時には、もう、さとしが大好きになってた。