「痛っ」
チカッとした痛みに、思わず声がでた。
指先に小さな傷口。
ぷくっと血が出てる。
役作りで必要な包丁づかいの練習を、家のキッチンで復習してたら、少し指を切ってしまった。
「かず、どうした?」
俺の声を、決して聞き逃さないこの人は、俺と、俺の持ってる包丁と指先を見比べて、何も言わずに指先をくちに含んだ。
口の中で、ちゅうっと吸われて身体がきゅっと反応しそう。
指を吸ったまま、俺を見たさとしがニヤっと笑って、傷口を舌で擽ってくる。
やめてよ。そんなことされたら、あんたが欲しくなるでしょう?
ムッとして睨んでやったら、口を離した。
「かず」
「何よ」
「なあ」
「だから、何?」
「可愛い」
「......... 」
「かず」
「.......... 」
「抱いていい?」
「ばっ、バカじゃないの」
「なんでだよ」
「こんな、昼間から... 」
「昼でも夜でも、朝だって、おいら、お前のこと抱きたいよ。お前もだろ?」
「それは...俺もだけど」
「じゃあ、いい?」
「夜から、撮影だよ?」
「わかってる。優しくするから」
本当に、ばかなんだから。
あんたに欲しいって言われて、俺が断れる訳ないのに。
それもわかってて、本当にダメな日は絶対に、誘ってきたりしない人。
「好きだよ、かず」
「俺も、好きだよ」
抱き寄せられて、目を閉じた。
お互いの映画の撮影で、忙しくなって、なかなか二人でゆっくりはできないけど。
こんな風に、少しの時間でも、俺を欲しがってくれるあなたに安心する。
ねぇ、ずっと、もっと俺を欲しがって?
そしたら、会えない時間もきっとあなたを感じられるから。