今週はハードな商談が続いて、久しぶりに疲れてお昼近くまで寝ていた。電話の音で目が覚めた。「はい○○です」「○○、山田だけど・・・」。弱弱しい声の山田君だった。彼は大手出版社の文庫出版部の編集長で、そこの会社で私と同期入社の友人であった。

今月に入って携帯に電話しても音信不通で変だなと思っていたが、1ヶ月近く腹膜炎で入院しているという。先日、手術が終わりようやく電話が出来るようになり、公衆電話でかけてきた。

私は山田君の会社に毎週1回は顔を出し、一昨日は上司にも会っているのに誰も教えてくれなかった。個人情報保護なのか、他人事は無関心になってしまったのか。山田君と私の関係を知っている後輩や女性社員も誰一人教えてくれなかった。

25年間会社生活を送ってくると、同期入社で亡くなった人、療養中の人、入院中の人、そして私のように身体に傷跡を残した人とまさに企業戦士という名前がふさわしくなる。私が胆嚢の摘出手術で8年前に1ヶ月入院したとき、見舞いに来た同期の仲間に、「退院したらみんなでモツ鍋を食べに行こう!」と約束したことがあった。

私の友人は、心臓、胃、小腸、肝臓などの手術をしている。モツ鍋を囲みながらみんなで失った臓モツにお詫びしたいと思った。

私の戦友は、みな身体に切り傷がある。決して風俗などにはいかない。なぜならお姉さんが傷跡を見つけて聞かれると、つい説明してしまいあっという間に時間が経ってしまう。真面目一筋に戦って、ああ、私は自分の胆嚢と何を引き換えに得たのだろうか。明日は、山田君のお見舞いに行こう。