「武藤!飛ぶな!やめろ!降りろー!!」
私の隣に座る男性がコーナーポストに向かって叫んでいた。声の主は、一般人ながら武藤と同じく膝に大怪我を負ったアステカイザーさんだった。
試合前、我々は映画「レスラー」の話をしていた。(皆さんご存知の方は多いと思うが)主人公はミッキーローク演じる、身体に大ダメージを負ったプロレスラー・ランディ。作品のラストは、ランディが医師に止められていたコーナーポストからの攻撃を相手に見舞ったところで、画面が暗転してエンドロールが流れる。主人公がプロレスラーとして、そして生命を終えたことを暗示するようなラストシーン。
コーナーから飛び生命を終えたランディとは異なり、武藤敬司は飛ばなかった。
武藤敬司は飛ぶことではなく、飛ばないことでレスラーとしての最後を表現した。武藤らしくクレバーな行動。
武藤敬司は引退しても、彼の人生もプロレス界も続いていく。LAST LOVE。愛は続く。
引退試合の相手は、プロレス愛を継承するために指名されたと思われた内藤哲也だったが、武藤は引退試合後、前代未聞の引退試合のおかわりを蝶野へ要求。このサプライズにファンは沸いたが、内藤のことを一切考えていない点がまさに武藤敬司だった。プロレス全体への愛ではなく、あくまでも自分への愛。プロレスLOVEが自己愛であるなら、その継承者は内藤哲也ではなく、第3試合に出たあの男だと思った。
ダサッ!!
アニマル浜口ジム出身、武藤に憧れた点、ファンに強烈なブーイングを受けていた点と、内藤とKAIの共通点はこんなにもあるのに現在の差がエグすぎる。
この男の自己愛が花開くときは来るのか?
そして自宅へ帰ると、プロレスへの愛深きゆえに愛を見失った男から、謎の荷物が届いていた。
次回、送り主とその中身とは?