僕の左手首にはカミソリで切った傷痕がある。


なんつーと、深刻な感じがしちゃうんですけど、
実はそんな事はなくって、間違えて切っちゃった。
           
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お風呂のプラスチックの鏡にはトレーが付いててですね、
そのトレーにはカミソリが置いてあったんですね。
で、その鏡の向きを変えようと左手でぐいーっとずらそうとしたら、
なんか左手首がカユイんですよ。
カユイってのも変なんですが、まぁカミソリが左手にぐいーっと
あたってたんですね。

僕はただただカユイもんだから、なんだかそのままグリグリーっと
左手首をカミソリに押し付けちゃって、ゴシゴシしちゃったんですよっ。

いやぁーびっくらしました。
出るわ出るわ、もう風呂場は血だらけですよ。
手首を切ると結構血が出ますぜ。

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という、しょーもない話なわけですが、
、、、いやぁー、手首を切ると思いのほか結構血がでますぜ。

かーなーり、暑い夏の日。

外に居るだけで、もうさ、トロトロとろけてしまうような昼下がり。


僕は家の近くにある大きな公園に居た。

暑いからいつもの様に大勢の人はいないけれど

親子が広場でキャッチボールをしてたり、

日陰のベンチで将棋をさしている人が居る。

          

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でね、僕の居る場所から10m位の距離に

ベンチがあって、水道があってね、

その脇にナゼか50cmくらいの

青いプラスチックのタライが置いてあったわけ。

「なんだろ??」と、通りすがりにちょっと思ってたわけ。




しばらくすると、小さな老夫婦(多分)がトボトボと歩いて来てさ。

いや、トボトボ歩いてんのはお婆さんの方、

体がどこか悪いんじゃないかな、って思った。

とても痩せていてブカブカのTシャツを着ていてさ。

(それともさ、痩せているからブカブカなのかな。)

お爺さんが体を支えている様だったもの。


そのベンチに二人は座った。


で、しばらくしてさ、見るともなしに視線をベンチに移すと、

僕の視界に裸が見えた。


一瞬、あの夫婦ではなくて、後から来た子供が水浴びを

始めたのかな、と思ったけれど、あの夫婦だった。




お婆さんが裸になっていてさ、あのタライにちょこんと

座っていて、お爺さんは上から水をかけていた。


お爺さんは、お婆さんを立ち上がらせては、体を何度も丹念に

タオルで洗っていた。

痩せている小さなお婆さんのオッパイは綺麗に垂れ下がっていてさ、

黒々とした陰毛が見えた。


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もちろん僕はその光景をまじまじと、ジーッと見ていたわけじゃないんだよ。

でも目に飛び込んできたその光景は、ちょっとショックというか、

心を奪われたというかなんというか。


けな気で素晴らしい夫婦愛?

社会福祉に対する疑問?


いえいえ、そうじゃなくってさ、うまく言えないんだけども

もっとさ、シンプルに「ニンゲン」みたいのを強く感じたの。

でもさ、やっぱり少し悲しい気持ちになったよ。


中学生の頃、クラスに好きな女の子がいた。

その子はすらりとした長い足をしていて、

クリッとした目をしていて、他の子よりも少し大人びていて、

その子が笑っただけで、もう世界はバラ色になった、ほんと。

そんな時代もあった。

 

               ●

 

その子とは教室の席がわりと近くで、給食の班も一緒だった。

(僕のいた中学校では、給食は男女6人位の班になって

机を向かい合わせて食べるのだ。)

毎日給食の時間が楽くないわけがない。

 

とにかく給食を一緒に食べながら、どんな風にその子を

笑わそうか、、毎日そんな事ばかり考えて過ごしていた。

               


 

だからと言って「好きです」なんて言う勇気なんて

ほんのこれっぽっちもなくって、でも、なんかのはずみで

付き合う事が出来たらなぁ、と。


例えばだれかにからまれているところを、こう、僕が助けに入って

、、、なんて、そのころの僕は日活映画ばりの妄想をいだいては

なさけない青春の日々を過ごしていたわけだ。

 

で、卒業式の日。

うーん、誰かに「第2ボタンをください!」なんて

言われたとしてもねぇ、僕は断固として断るぞ。

あの子にしかこれは渡せないのだ!

なんて、だーれも来ないのにそんな無駄な決意してたりして、、。

 

                ●

                

そんなわけで、その子とはなーんの出来事もないまま僕の

淡い恋はあっさり終わるんだけども、もちろん後日談はある。

 

                ●

 

高校生になって1年程してから、

中学校時代の友人Tが僕の家に一冊の本をもって興奮気味に

現われた。

「おい!これを見ろよー!このページっ!」

 

 Tが開いたそのページには、僕の好きだった子が載っていた。

あの頃と同じように、世界中をバラ色に変えるような笑顔だった。

そして写真の中の彼女はスカートを両手でつまんで、少しめくり上げていた。

 

               

 はっきり言って、その本はエロ本だった。

 

                 ●

 

遠い記憶に「卒業写真のあの人は、、」とフト思う。

青春18切符って、18才までしか使えないと思って

いたけれど、そうでもないらしい。(じゃあなんで青春18?)

 

という事を知ったのは20才だか21才の頃だった。

その時、僕はまだ若くて、失恋をしていてワリと傷ついていた。

 

 

で、早速青春18切符を買いに行って、翌日旅に出た。

失恋旅行というわけ。

 

まず頭に浮かんだのが、当時CMで流れていた「三都物語」。

というわけでまず京都(10時間ぐらいかかった)。

宿を探す。もうあたりは夕暮れで。

 

一人旅だからかなんなのかどこも断られて、大阪まで出て

夜中にたどり着いたのは汚いビジネスホテル。

翌日から梅田のカプセルホテル。

カプセルホテルでは地方から団体で来ている工事現場の人達と

仲良くなり、人生について大いに語られる日々。

 

別れた女の子に手紙を書いた。

でもやっぱりポストには入れなかった。

 

やがて数日が過ぎ金も尽きた。(それが何日間だったか憶えていない。)

最後のほうは金が無くてふらふら。

大阪の「食い倒れ」の街を、腹へって倒れそうになりながら歩く。

 

帰りの電車ではОLさんと隣同士になり東京まで恋愛について大いに語る。

(彼女も青春十八切符を使っていた。東京にいる彼氏に会いに行くそうだ。)

すごく励まされた。彼女はとてもイイ事を言っていて、僕はわりと感動したんだけれど、

どんな話しをしたのか今ではまったく憶えていない。

 

 

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「と、言うわけでですね、なかなか僕はこう、思い立ったらエイッと出掛けてしまうような

行動的な部分もありまして、ええ。」

そこは新橋のとあるビルの一室だった。

僕はある大きな鉄鋼会社の就職試験を受けていた。


周りは皆一流大学だし、どーせ受かるわきゃねーよな、となかばヤケに

なっていて、その時の話しをオーバーに、面白おかしく話した。

面接担当者達は若い人が多くて、身を乗り出しながら爆笑。

 

で、最後に偉い人が「でもねぇ、○○さん、仕事がイヤになって旅に出られちゃ困るからねぇ」

また一同爆笑。

 

 

 

え?試験の結果?

もちろん、落ちましたよ
今まで生きてきて
よく言われた言葉

スケベ

ヘンな人

それでもイイじゃないか
人間だもの
信じようが信じまいが。

ある夜、僕はオートバイで走っていた。
(その頃ホンダのGB250に乗っていた。)
夏。どこかの道。

右側は山で、左側のガードレールの向こうは何十メートルかの崖で海。
海はどこまでも黒く、ずっと遠くに見えるかすかな点は漁船の灯り。
しばらく走っているけれど道に灯はなくって
ただ、自分のヘッドライトの灯りとエンジンの音とヘルメットに響く
風きり音だけ。

たまに地図を見る為バイクを停める。
バイクから降りてエンジンを切ると、耳鳴りがしてしまうくらいの静けさ。
それでも少しすると、遠くからかすかに波の音が聞こえるのがわかる。
懐中電灯で地図を照らすと、あまりに進んでいない走行距離に
がっくし。
今日寝る場所は何処になるのだろうか、の自由感すら楽しむ余裕もなくて
ただ疲れきっている。
懐中電灯の明かりに集まってきた虫を手で払う。

またオートバイに跨って走り出す。
道は狭いから右側に生い茂った木の葉が時折バックミラーをかすめる。
僕は「このガードレールとその反射板がなかったら海に落ちてしまうかもな」
とさっきから考えながら走っている。

ある瞬間、ヘッドライトの灯かりの中に浴衣姿の女性が現われる。
ガードレールの遠く下の海を眺めるように立っている。

僕は減速するでもなくその脇を通りすぎる。
人里離れたこの暗い道に人が居る事の意外さ、はもちろんだけれど、
そう言った理屈を抜きにして、直感的に、僕は「変だ」と感じる。
怖かった。
それでもそんな感覚を拭い去りたくて、走りながら
ちょっと行った先に車が置いてあることを願い道脇を目で追う。

思った通り車はなかった。
わき道もなかった。



この話しにオチはなく、それだけの話し。
ただ、信じようが信じまいが「幽霊を見たことがあるか?」と聞かれたら
僕は「ある。」と答える事にしている。
太陽とシスコムーン、何を隠そう実はあの元体操選手の人が
僕は好きだった。

まあそれはイイとして、サンフランシスコ、あの路面電車が
走っている街ですね。ええ、ずーっと昔、行きました。
で、それについてなにか書こうと思ったのだけど、、何にも
覚えていない。

もちろん、その街並みや、泊まった所、食べたものなんかは
かすかに覚えてるんだけれど
その時、自分が何を感じて何を思っただとか、そこらへんの
記憶がほとんどない。
つまりそれほど僕にとって印象もなく興味もない場所だった、
というわけだ。

 なんつってても、まーったく何一つ記憶に残らなかったか、
つーとそーでもなくて一つだけ記憶に残った事がないでもない。

その時僕は夕暮れの街を一人でさまよっていた。
で、カッコ良くさまよっていたかっつーとそうでもなくて、
なるべく激しめのですねぇ、、えーとエロ本をですね、、友達に
「買ってきておくれ」と頼まれていてですねぇ、、怪しめの店を
探していたわけ。(すんごく友達思いなわけ。)

で、大通りから裏手に入った古びたビルの地下の店。
カツンカツンと階段を降り、そこの店に入ったとたん、我が目を疑う光景が。

「この店、、すんごく混んでるな、、、い、いや、これ人じゃない?!」

そうです、この店の中にはズラーーッと店の入り口から奥まで
ものすごい数のダッチワイフの人?達が陳列されていたのだ。
それらは白人、黒人、アジア系はもちろん男性型ダッチワイフ(ワイフ?)まで
あらゆるニーズに対応すべくバラエティーにとんでいた。
「さ、さすが、、シ、シスコ、、。」


そんなわけですから、今でもたまーにテレビやなんかで
サンフランシスコの風景かなんかを見かけると
あの地下の店、マッチョマンの黒人男性型のお人形さんが
頭をちらりと横切るのだった。
まぁ、ホントどーでもイイ話しだけどもね。
 夏。雨が朝から降り続くどこかの道。
空はドンヨリ灰色に薄暗くって、止む気配はない。
オートバイのハンドルを握るグローブは雑巾みたいに
絞れるくらい濡れている。
そして右手には山、左手には川がどこまでもどこまでも続くよ。

たまに現われる街は雑貨屋が2、3軒と、雨の中に
ぼんやり光る真っ赤な郵便ポストがあって、はい、
おしまいよ。人もいない。で、また山。

そんな中を走り続けているとやがて頭の中は真っ白に
なって、いや、真っ白じゃない、透明な感じ。
だから腹も空かない。イヤな事も考えないし、イイ事も
考えない。

やがて日は沈むけれど、山向こうにキレイな夕焼けが、
なんて事もなく、ただ空は暗くなる。夏なのに寒い。

暗闇の橋のたもとに小さな建物の明かりが見えて、「あ、銭湯だ」
と思う。なぜなら木造のその小さな建物からモクモクと立ち昇る
煙が見えたからだ。

橋のたもとにオートバイを停めてその建物に向かってあるく。
どっぷりと雨にぬれた靴は一歩づつ歩く度に「ジュポ、」と
へんな音を立てる。

入り口は古い木の引き戸。客は近所のじいさんばあさんだけの風呂。
風呂は予想通りの温泉。小さな湯船。

風呂から上がって電話を借りた。脱衣所を出た廊下に電話はあった。
その廊下の左手には部屋があった。(ここは住居兼、風呂屋だ。)
部屋を背にするように電話をかけたけれど、部屋の中が見えた。


 
 薄暗い廊下から見る部屋はとても明るく見えた。
10畳くらいの畳の部屋でおじいちゃんとちいさな男の子が
ちゃぶ台の上に乗った夕食を食べていた。おかずは魚だった。
テレビがついていた。それはアニメ番組だった。
そして外はまだ雨が降っている。

 そんなどーでもイイ光景をさっきフト思い出した。
「毛糸の手編みマフラー」とかって、
すんごく心を揺さぶられるものだと思うのだけれど
どうだろうか。

もしも僕が女だったならば好きな人の為にマフラーを
編むのだろうな、と思う。
編んで編んで編みまくるのだろうな、と思う。

二人は学生時代から同棲をはじめ、卒業後にその男性と結婚。
草加あたりの公営住宅に二人は暮らす。
最初の5年程は夫の仕事(銀行員)も順調で幸せな日々を
過ごすが、夫の会社が倒産し、再就職もままならず
家計は厳しくなる。子供は1人。
夫は一日中家に篭もりっきりの日々。哲子は内職とパートで
家計を支えている。

「う、う、哲子、こんな情けないオレでごめんな。」
「ううんっ、学生時代、二人ともお金がなかったけれど、
あんなに毎日幸せだったじゃない!」

次の日の朝、夫はあの学生時代クリスマスにあげた、もう色も
あせてしまったマフラーを首に巻いて就職活動に向かった。

「あ、アナタ、ちょっと恥ずかしいから、、。」
「恥ずかしいもんか、哲子のこのマフラー巻いてたらなんだかオレ
頑張れそうだよ。今までごめんな。もう哲子に苦労させない。」
「アナタ、、。」
ほほ笑む哲子の目にはかすかにキラリと光るものがあった。

 
 そんな風なケナ気な女性に一度なってみたいな、とか
妄想する僕はちょっとおかしいんじゃないかと思うが、
そこんとこはどうだろうか。
 車の運転が嫌いなのはなんでだろうか、と。

閉所恐怖症ではないのだけれどあの屋根のついてる
「閉じ込められてる感」がイヤだ、と。
しかも渋滞したら身動きできない所なんかもイヤだ、と。

が、しかし様々な面で車が必要とされる状況に遭遇し、
やはり車位は持ってないと、と思った8年位昔の私。
んで、そう思ったから、「トヨタスターレット」の
天井が全面ズバーッと開く幌のやつを買った事がある。
まっ黄色のやつ。ボロボロの中古なのに40万した。
2年間で5千キロ位乗って廃車にした。
 
 だってあんまし乗らねーんですもの。やっぱ。
好きじゃねーんですもの車。
それにだいいち、ここいらの駐車場は3万もすんですもの。

 そんなわけでそれ以来車は持ってないし買う予定もない。
(しかし、もしも誰かタダでくれるのならば、ジープチェロキーがいい。)