in starbucks
息子を保育園に送った後、
車をお気に入りのカフェに向かい走らせていた。
人の流れが駅から溢れてくる。
側道にあるレンガ色の建物の陰に、足を止めた制服姿の女の子の姿が見えた。
女の子は落ち着かない様子で駅の方へ何度も視線を投げかけていた。
スマートフォンに触れたとき、
映し出された２．１４の数字に、はっ、とした。
そうか、あの子は、待っているんだ。
世界中の女の子が、大切な人を待っている。
息が止まりそうなほど胸が高鳴る、世界一長い時間の中で。
車に表示される外気温はマイナス2度。
マフラーを巻いているとはいえ、スカートに薄着の女の子。
両の手は赤く腫れているように見える。
祈るように重ねた両の手を口元にやり、
女の子はそっと息を吹きかけた。
掌に広がる温もりは、すぐに真っ白になり冷たい空に混ざった。
女の子が一瞬置物の銅像みたいに固まったのは、
大切な人を見つけ出したのだろう。
ドキドキの高鳴りが聞こえてきそうだ。
慌てて鞄のファスナーを開ける。
チョコレート色の包装紙から垂れた命綱のような金の糸に
振り落とされまいとハートの赤が必死にしがみついていた。
―落ち着け、大丈夫、ハートもわたしも―
言い聞かせるように揺れるハートを握り締める。
ドキドキに足が動かない。
―一歩だけ、前へ踏み出す勇気をください。―
「なにやってんの」
「あ、、、」
「遅れるよ」
「うん」
女の子はそっとファスナーを締め
嬉しそうに微笑んだ。
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