絵本にしたい、ねこたちのはなし

もうひとひねり、何か、が足りない気がするけど、試作品。主演らいじろう。共演ねぎ。

少し、使った言葉が、子供に分かりにくいから、表現を、もっとマイルドに、違う感じにしなきゃいけないと思う。恋愛を盛り込んだせいか、大人向けっぽくなっちゃった。絵本を意識したけど対象年齢は前作より高め。


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タイトル

「ライジングライジロウ2号」



ねぎちゃん。また君は窓の外を眺めているね。そこから見える風景がよっぽど好きなのかい?

誰にでも好きなものはあるさ。もちろん僕にもある。

今、僕は、毎日考えていることがある。それは、


空を飛ぶこと!


ある日、テレビで、人間が羽を着けて自転車でペダルをこぎながら海の上を飛んでいるのを見たんだ!

僕はその時、思ったね。


「これだ!」って。


先ずはホームセンターに行って材料を購入。


苦難の研究。開発。そして、失敗。いくつかの挫折。いくつかの壁を乗り越えて、


ついに完成した



その名は、ライジングライジロウ1号


身だしなみも大切。このゴーグルがあれば、気分はパイロットだ!


人間は体重が重たいだろ?。長い時間飛ぶのは難しい。だが僕は違うよ。吾輩は猫である。

体重が軽いから長く飛んでいられるだろう。


しかもこの甘いマスクを持つ男。一匹狼ならぬ、一匹猫!その名はらいじろう様だ。


空を飛んでどうするのか。


そりゃあ、もちろん!


かわいこちゃんを後ろに乗せて空を散歩するのさ!


でも、ぼくは、女性を4人しか知らない。


先ずはマミタス。顔は美人だけど、アザラシみたいに太っているから、重くて空は飛べそうにない。


ショコラ。まだ、子供で、かわいいけど、落ち着きがないから、空中で騒がれたら墜落しちゃう!


つくし。これまた赤ちゃん。おてんば。かわいいけど、気が強くて、とても僕のてにおえない。


ねぎ。からだが小さい。落ち着きもある。


やはり、ねぎちゃんを誘ってみるか。


そして、窓の外を眺めるねぎちゃんに声をかけた。

よう!ねぎちゃん。元気かい?調子はどうだい?窓の外ばかり見ているね。何が見えるんだい?


小鳥さんよ。ご飯をたべてるの。かわいいわよ。


鳥が好きなんだね。

うらやましいの。わたしも小鳥さんみたいに空が飛びたいなぁーって思うの。


そうか!ねぎちゃん。空を飛びたいのかい?奇遇だなぁ。

だったら、たまには僕と付き合わないかい?見せたいものがあるんだ。屋根の上にきておくれ!


屋根の上に来た。すると、そこには完成したライジングライジロウ1号があった!

すごい!何?これ、どうしたの?

後ろに乗って!僕に掴まって。


ライジングライジロウ1号発進!


ペダルをこぎだした。らいじろうの背中に思い切りしがみつくねぎちゃん。


運よく追い風が助けてくれたおかげで、墜落せずに飛べた!


わぁーすごーい!飛んでる!

ライジングライジロウ1号は空中を自由に飛ぶ。

小鳥さんたちが飛んできて一緒に並んで飛んでくれた。

ねぎちゃん。どこに行きたい?すきな所につれていってあげるよ。


それじゃ、四ッ谷の公園の横の雑木林。

そんなところでいいのかい?

うん。いいの。どうしても行きたいの。


だが、探しても探しても見つからない。

おかしいなぁ。この辺りのはずなのに。

何年か過ぎていた。その間にこの辺りには建物が建ち、看板が並び、街の風景がすっかり変わってしまっていた。

あの懐かしい雑木林はビルの谷間や看板に埋もれて消えてしまった。

ねぎちゃんは、淋しさを隠しきれなかった。


わたしは、このあたりの雑木林で産まれたの。


だけど、あの雑木林はもうなくなっちゃったのね。


そうだったのか。だから、ここに来たかったんだね。


寂しそうに頷いた。


よし!それじゃ!今度は僕が行きたい所に付き合ってくれるかい?


海に来た。朝焼けが綺麗だ。

わぁー!すごい!これが海ね!海は広いな大きいな!

海岸沿いを飛んだ。かもめと並んで飛んだ。

小さな島を見つけて着陸して、お昼寝した。


ねぎちゃんは雑木林で雨の中、小さなダンボールで雨宿りしていた頃の夢を見ていた。


前方の木の枝には小鳥の巣があり、親鳥と雛が雨宿りをしていた。小さなねぎちゃんはひとりぼっちで小鳥さんを見ていた。


その頃らいじろうもふるさとの夢を見ていた。

らいじろうは駐車場の片隅で産まれ、誰よりもすばしっこく駆けずり回って遊んでいた。

ある日、階段の隅に置いてあった鼠取りにひっかかり、からだ中ベタベタになった。


全身を洗ってもらうが、ベタベタが取れない。仕方なく身体の毛を切ってもらった。すると、まるでねずみの子供みたい細く小さくなっちゃった。そんな思い出を夢で見ていた。


海の潮風に吹かれて、ふたりとも、ちょっぴり泣いて目が覚めた。


もう夕方。お腹が空いた。


おうちに帰ろう。


また、いつでも来ればいい。


家に帰ってきた。


いつものカリカリがいつもの何倍も美味しい!


マミタスはいつでもみんなのお姉ちゃんだ。


あんたたち二人でどこにいっていたの?みんなで心配していたのよ。


らいじろうはマミタスにだけ、こっそり報告した。するとマミタスは、


今度はわたしを連れていってね!

微笑みを残して去っていくマミタス。

気まずい表情を隠しきれなかったらいじろうの額から嫌な汗が流れた。


ライジングライジロウ1号ではマミタスの体重を乗せて空を飛ぶのは不可能だ。墜落というより、飛べない。


早速、ライジングライジロウ2号の開発を始めなければならない。

10時になったらホームセンターに行こう。


しばらくしてねぎちゃんがもじもじしながらやってきた。


はい。これ。あげる!


2つ折りの画用紙をらいじろうに渡すと、照れを隠しながら素早く走りさっていった。


渡された画用紙を開いてみると、絵が描いてあった。



ねぎちゃんが御礼にクレヨンで絵を描いてくれたのだ。


それはあの日の思い出を描いた絵だった。


下のほうには、ありがとうの文字と、その隣にはハートマークが並んでいる。


ニヒルに微笑むらいじろう。


泣ぁけるぜぇ…。と、呟いてみた。


モテル男を感じつつ、罪な男に酔いしれる。

勘違いに浸るらいじろうに着ける薬はない。


飛べない猫は、ただの猫だ。と、らいじろうは絵を見ながら思った。


絵の中の二人は海岸沿いをかもめと並んで飛んでいた。




おしまい。