徒歩圏内のCastle Cinema でシリア映画の『Nezouh』(2022) を月曜割引(£6=¥1200)で観賞したのは10日も前。スクリーン2だったので、大型テレビの4倍位の小さい画面で30席程度だったが、ほぼ満席。ロンドン市民の戦場への関心は案外高い。実はこの映画はトルコで撮影されたので、シリアの現状ではない。それでもSoudade Kaadan監督がシリア出身なので、現実に近いと思われる。因みにアラビア語のNezouhを英訳するとDisplacement、日本語訳なら「強制退去」。シリア映画と言えば以前『シリアにて』(2017)で深刻なフラット閉じ籠り生活にショックを受けたことがある。でも『Nezouh』は青春ファンタジー風でどちらかと言えばコメディ的なところがあって気楽に観られる、と同時に少し物足りなさもあるけれど。さて、あらすじは…

 

  ダマスカスの自宅に爆弾が落ちて天井に大穴が開いたにも関わらず、父ムタズは難民という不安定な生活に飛び込むことを拒否。妻のハラーと10代の娘のゼイナは彼と共に留まるか、彼を捨ててダマスカスから去るかの選択を迫られる…(IMDbより翻訳)

 

 予告編から分かるように、爆撃で天井に大穴が開いたのに、父は何故だか可愛らしいシーツで穴を塞ごうとするのが可笑しい。もっとしっかりした板、トタンとか合板とかを屋上側から使えばいいのに…また、慣習で成人女性は他の男性に髪を見せてはいけないほど男女間の交流に厳しいのに、10代の娘はお隣の少年とこっそり屋上で毎晩会っているという皮肉。また、そのお隣さんがやけにかっこよくてネタバレになるけれど、最後には母娘を助けに来てくれるという夢物語のような展開(ちょっとオメデタイ)。ただ、同時にこの戦場下で娘の姉をどうもある兵士に売り飛ばしたような悲惨な過去も隠れていて、このギャップをどう処理したものか戸惑う。

 

 建築的にはあれだけ破壊された都市を観るのはやるせない。ただ、天井の大穴を見る限り、鉄筋が入っていなくてセメントだけなのか?どうやって建設したんだろうかと大疑問。鉄筋が入っていなかったらいつ崩壊してもおかしくないので、もしかすると藁か何か繊維で繋がっているのか?建設方法が気になってしまう。ただ、地震がない国では、アッと驚く方法で建物を建てることがあるので、私が知らないだけかも。いつ何時悲惨なことが起こるか、と身構えていたら予想外の結末でちょっと拍子抜け。でも、戦場での生活を疑似体験はできる。


日本語版の予告編が見当たらないので日本ではこの映画の公開はまだ未定の模様